第36話 人食いワニ
「お、このあたりにいそうだな。良い感じに浜辺になってるし。」
ヤリカワセミくんとお別れした僕は、次なるターゲットを探して水辺を歩いていた。今僕が歩いているのは、新宿ダンジョン7階層の水辺だ。後半層の多くを占めるこの水辺は透明度が非常に高い。
水際は細かくなったコンクリート片やガラス片、砂が混ざった地質となっており、足がとられやすい。砂浜を歩いている感覚が一番近いだろう。
「おっ、いたいた! うわぁ、動画とか写真で見るよりもでっかく見えるぞ…。」
前方に、ターゲットを捕捉した。全身を覆う、緑がかった黒い鱗。牙が覗く巨大な口。どっしりとして短い手足に、長い尻尾。10mにも及ぶ、その体躯。
そう、人食いワニだ。
普通のワニも人を食うだろって? いやいや、この子たちは人を積極的に襲うんだ。水辺の頂点捕食者である人食いワニは、ゴブリン、カピバラさん、オーク、そして特に人間を襲う。一度噛みつかれたら最後、生還することはほとんど不可能だ。デスロール、と呼ばれる回転運動を行うことで獲物を弱らせ、肉を噛みちぎり、捕食する。
一般的なワニのデスロールとは異なり、人食いワニのデスロールはスキルによるもの。従って、威力は段違いだ。受けたら即死の、まさにデスロールである。
そんな超危険生物たちが浜辺に横並びになって、ぐでーっとしている。どうやら今の時間は、日光浴タイムのようだ。みんな気持ちよさそうに目を閉じて、全身で日光の暖かさを享受している。気持ちよさそうだなぁ。
「僕も横になっちゃおっと。」
一番端の人食いワニ君の横に並ぶかたちで、僕も寝転がった。うーん、ぽかぽかとしていて、今日は絶好のダンジョン日光浴日和(?)だ。
『…オイ、シンイリ。ドコカラキタ。』
「ダンジョンの外だよ。こう見えて、僕は人間なんだ。」
『ニンゲン、ダト? ニンゲンナノニ、オマエ、マズソウダ。』
ちらっりと横を見ると、人食いワニが半目でこちらを見つめていた。
「む、失敬な。いや、失敬と言っていいのか…?」
不味そうと言われて喜ぶべきなのか、怒るべきなのか、どっちが正解なんだろう…?
『オイ、ニンゲン。タノミガアル。』
「頼み? どうしたの?」
『キバガ、イタイノダ。』
牙? もしかして、虫歯だろうか。人食いワニは、生涯歯が生え替わり続ける。ある程度摩耗すると自動的に抜け落ちて、新しい歯が生えてくるのだ。もしかしたら、悪くなった歯がうまく抜け落ちずに口内に傷をつけ、痛んでいるのではないだろうか。
「ちょっと見てあげるから、口を開けて? あ、僕を噛んで丸吞みにしたりしないでよ!? そんなことしたら、お腹の中で火魔法をぶっ放すからね!」
『オ、オソロシスギル。』
人食いワニくんが口を開けたので、仰向けで口内に侵入する。A健全、B健全、うん? 奥歯のところ、歯が二重に生えかかっているが、肉片のような物が絡みついてしまっている。
僕はアイテムボックスからペンチを取り出すと、それで該当の歯をコンコンと叩いた。
「ここ、痛くない?」
『ソコ、ソコダ!』
やっぱりここだったか。僕は指先に風魔法を纏わせると、絡みつく肉片を細切れにした。そして、ペンチで抜けかかった歯を掴み、おもいっきりぶち抜いた。
『ガーーーッ!』
「おわーーーっ!?」
バシャーーンッ
人食いワニが痛みから、思いっきり顔を振り上げた。その拍子に僕は外へと投げ飛ばされ、水中に落下した。
「コラ~~~~~~ッ! ずぶ濡れになっちゃったじゃん!」
『ワルイ、ヒマホウダケハ、カンベンシテ。』
まぁわざとじゃないだろうし、良いんだけどさぁ。
『ソノキバ、ヤル。』
「え、ありがとう。」
人食いワニの牙は、ナイフとして加工すれば非常に優秀だ。軽くて丈夫、切れ味もなかなかの物。一つで1万円程度はする。仕方ない、これで許してやろう。
「って、うん?」
『『『…。』』』
人食いワニ達が一列になって、僕をじっと見つめていた。
「…もしかして、君たち全員、歯が痛いの…?」
人食いワニたちは無言で、その大口を開いた。
○
「〈スラッシュ〉ッ!!」
『グギャーーーッ!』
ゴブリンメイジが血しぶきを上げて倒れ伏した。俺は剣を一振りして、血を飛ばした。丁寧に雑巾でぬぐい、鞘へと収める。
「お疲れ、ユウキ。」
大盾を持った俺の親友、沢村タケシが声をかけてきた。
「ありがとう、タケシ。ミカとイツキは?」
「こっちも終わったよー!」
「も~、まーたミカがファイヤーボール連打してきて、あやうくうちまで食らいそうになったんやけど!」
「たはは、ご、ごめんって。」
:戦闘お疲れ~
:ゴブリン上位種の群れ相手でも、安定感抜群だったな
:さすが「プログレス」だな
:この若さで新宿ダンジョンとか、万年初級ダンジョンのワイ涙目
「みなさん、ありがとうございます。いや~、俺たちもまだまだですよ。特にミカ、フレンドリーファイヤには気をつけろっていつも言ってるだろ?」
「うぅ、マジでごめん…。でも、今回はうまい具合に魔法を当てられたよ? 三発撃って、三発とも命中!」
:やるやん
:ミカはワイが育てた
:ふーん、やるじゃん
:ちゃんと見てたぞ!
「あーもう、皆さんあんまりミカを甘やかさないでください!」
俺たちは大学の探索者サークルで出会った四人組。パーティ名はプログレス。自分で言うのも何だが、新進気鋭の中級探索者パーティだ。
俺の幼なじみで魔術師の三浦ミカ。大学で知り合って意気投合した、タンクの沢村タケシ。タケシと同じ高校から進学してきた、シーフ兼斥候の小林イツキ。そして剣士の俺、天城ユウキ。この四人で探索者を始めてから約二年。新宿ダンジョンに挑み始めてからは、もう数ヶ月になる。
:そろそろあれやったほうがいいんじゃない?
:早くしないと、他のモンスターが寄ってくるぞ
「ありがとうございます。みんな、いつものやるよ。」
俺たちは倒したゴブリンメイジとゴブリンたちに、手を合わせた。俺の両親は、北海道で猟師をしていた。撃った獲物に手を合わせて冥福を祈ると共に、その命に感謝することを、幼い頃からたたき込まれた。
故に、探索者となった今でもこうして、命に感謝することを忘れないようにしている。
「…よし、他のモンスターが寄ってこないうちに、解体してしまおう。」
「「「了解。」」」
俺とタクトがモンスターの死体を、川辺まで引きずっていく。水辺の方が血を洗い流せたりして、何かと便利だからだ。人食いワニが寄ってくる可能性もあるが、やつらは知能が高い。四人相手には滅多なことがない限り、襲ってこないだろう。まぁ、警戒は怠らないけど。
:おいあれ
:やばい
:後ろ
:ユウキ後ろ
:気づいてくれ!
水辺に到着した瞬間、コメント欄が騒がしくなった。後ろ?
「みんな、あれっ!」
「人が、食べられてるっ!?」
ミカとイツキの慌てたような声。数100m以上離れた浜辺、大量の人食いワニ達の中。強化された視力が、それを捉えた。人食いワニの口から、人間の両足が飛び出している。
「クソッ! 助けるぞッ! 総員、戦闘準備だッ!」
「「「了解ッ!」」」
くそっ、手遅れかもしれないが、どうか間に合ってくれッ…!
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




