第35話 ヤリカワセミ
「報告は以上となります。」
「そうか、やはり情報提供はしてくれなかったか。」
東京ギルド本部、通称新宿ギルドの執務室にて、桜井からの報告を受けた岩崎は、深いため息をついた。
「それにしても、レストランで恐喝か。こちらの職員の発言も、ギルド職員として看過できない内容だが、まさか怒りに呼応した魔力の発露だけで、窓ガラスが吹き飛ぶとは。」
「実際にこの目で見ましたが、彼はすでに上級探索者と同じ、もしくはそれ以上の力を秘めていると思われます。」
「モンスターにしか興味がない青年、未知のスキルを持ち、その実力は上級探索者顔負け。おまけに…。」
岩崎は眉間にシワを寄せながら、手元の報告書を眺めた。
「おまけに、あの“英雄”たちの息子だったとは...。」
『岩崎さんッ、早く逃げろッ! 俺が時間を稼ぐッ!』
父、守野ヒデオ。14年前の富士ダンジョンスタンピードにて、市民を守るために戦い、ドラゴンロードと相打つ形で、死去。
『これは、私にしか。いえ、私たちにしか、出来ないことなんです。だから、気に病まないでください。』
母、守野アイ。同じく、14年前の富士ダンジョンスタンピードにて、命を代償にした結界魔法を展開し、死去。
「道理で、あのローブマントに見覚えがあった訳だ。あのマントは、アイさんの形見だった訳か。」
「5歳で一人になり、祖父、祖母に育てられる。しかし、中学2年時に祖父、祖母が共に他界。それ以来、一人で暮らしていたようです。幸い、両親の遺した遺産のおかげで金銭的な不自由はなかったようですが、それでも、幼い少年には辛い経験だったでしょう。」
「当時はスタンピード対策でギルドも慌ただしかったからね、情報も把握できず、結果として恩人のご子息を放置してしまう形となっていたのか。」
岩崎が再び、深いため息をついた。手元の資料、ヒデオとアイ、そしてゴロウの家族写真が、目に入る。
「…あのときの少年が、まさか探索者になっているとはね。これも血筋、なんだろうか。」
岩崎の脳裏に、過去の記憶が蘇る。守野夫妻の葬式、カブトムシのぬいぐるみを握りしめた、幼い少年の姿。
『どうして、パパとママは、僕を置いていったの…?』
「岩崎部長?」
「ん? あ、ああ、すまない。さて、今後のことを考えないといけないね。」
時刻はすでに、深夜12時。ギルド職員達の仕事は、終わらない。新宿ギルドが「不夜城」と呼ばれる所以でもあった。
○
「来た…!」
『ピピピピィーッ!』
早朝の新宿ダンジョン。朝靄がうっすらと立ちこめ、草木はしっとりと濡れており、キラキラと光を反射している。
川辺で寝そべっていた僕は、とあるモンスターを待っていた。ヤリカワセミ。40cmほどの美しい鳥型モンスターで、綺麗な水質の水辺に生息している。
青紫がかった輝くその羽は、装飾品として非常に人気で、高値で取引されている。槍のように鋭く尖った硬質な嘴で、魚や小動物を突き刺し、捕食する。この嘴もまた、武器や加工品素材として出回っている。
「やっぱりあの枝! ヤリカワセミ好みの枝だと思って目をつけていた甲斐があった!」
川岸から飛び出している、太い枝。その先端にちょこん、と。ヤリカワセミが留まっていた。ヤリカワセミは特に魚が好物で、川岸から飛び出しているような枝に留まり、獲物を狙う習性がある。魚を発見すると勢いよく水中に飛び込んで嘴を突き刺し、枝の上でそれを丸呑みにするのだ。
『ピピッ!』
「飛び込んだっ!」
僕の眼前で、ヤリカワセミが勢いよく水中に飛び込んだ。水しぶきがあがった次の瞬間。ヤリカワセミは大きなナマズのような魚を突き刺して、枝に舞い戻った。
「で、でかい! あんな大きい獲物まで丸吞みに出来るのか…。」
感心して、見つめていると。
『ビビッ、グエーッ! グルジッ!』
「え、えぇ…。」
丸吞みに失敗し、喉に詰まらせてしまった…。羽をバタバタして必死に飲み込もうとしているが、どう考えても無理なサイズだ。仕方ない、助太刀するか。
「おーい、そこ動かないでね! 今助けてあげるから!」
○
『ピヒーッ、タスカッタ、タスカッタ!』
ヤリカワセミが僕の膝の上で嬉しそうにピーピーと鳴いている。僕は一口サイズに切り分けたナマズを、ヤリカワセミに与えていた。親鳥にでもなった気分だ。
「気をつけなきゃダメだよ? 君ももう親鳥になる年齢なんだから。」
『ピピピーッ、スンマセンッ!』
この子は羽の色からして、すでに成鳥。幼鳥はもう少しくすんだ色をしている。ヤリカワセミくんの頭を指でかいてあげると、とても気持ちよさそうに目を細めている。
『スキル獲得:ヤリカワセミ』
無事にスキルも獲得できた。ぶるぶると体を震わせた、ヤリカワセミ。羽が何枚か抜け落ちた。青色、紫色、そして、青紫色の美しい羽だ。
『ピピーッ! アゲル、アゲル!』
「え、いいの!? ありがとう!」
ヤリカワセミの羽は貴重だ。ヤリカワセミ自体個体数が少ないため、発見するのも難しい。さらに、発見できたとしても、非常に素早く、また危険性が高く倒すことが難しいからだ。
鋭い嘴による突進攻撃は、金属鎧であろうと簡単に貫いてしまう。故に、羽は非常に高額で取引されている。
基本的に探索者達は、ヤリカワセミ本体を狙うのではなく、抜け落ちた羽を探す。川沿いを歩きながら羽を探しつつ他のモンスターを狩り、偶然羽を発見できればラッキー。そんな具合だ。
僕がもらったこの三枚でも、30万円ほどにはなるだろう。
「わずかに水の魔力を感じる。綺麗だなぁ、光の当たり方によって、エメラルド色にも見える。ブローチとかになる訳だ。」
ヤリカワセミくんは、どこか誇らしげだ。
羽を光にかざす。早朝の爽やかな空気、きらめく草木とヤリカワセミの羽。膝の上に感じる、ヤリカワセミのほのかな体温。小さな昆虫の鳴き声、遠くからかすかに聞こえる、オークのいななき。
あぁ、僕はやっぱり。ダンジョンが、そして、モンスターが。
「大好き、なんだなぁ。」
しみじみと、そしてしっかりと、再認識した。
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スキル:ヤリカワセミ
①刺突突進
刺突を行う際、ブリッツ移動を可能にする。空中移動も可能。使用時に魔力を消費する。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




