第30話 考察
スキルが獲得できなかった。あり得ない話では無い。むしろ、これまでがうまく行きすぎていただけだったのかもしれない。
ダンジョンを後にした僕は、思考の渦に飲み込まれながら、帰宅の途についていた。冷静に、僕の「モンスター」というスキルについて思い出してみる。
モンスターが持つスキルの取得条件は、「モンスターの生態を深く理解し、信頼関係を築くことで、そのモンスターの持つスキルを獲得できる」だ。
つまり、今回はこの条件を満たしていなかった、ということになる。
「うーん、事前に得られる情報はすべて勉強したんだけどなぁ。」
僕はボス戦に挑む前に、とある仮説を立てていた。それは、ボスはすべて、倒すことでスキルを手に入れられる、という仮説だ。
僕が最初に倒したボスは、幻影剣士。彼は倒すことで、そのスキルを獲得することが出来た。倒すことで理解し、スキルを獲得するというのは、これまで出会った様々なモンスターの中でも、幻影剣士だけだった。
そのため、ボスは特殊なのでは?と、考えたわけだ。
しかし、今回のボスであるシャドウ・ファイターはどうやら違うらしい。倒すだけではダメ。つまり、僕の仮説は間違っていたことになる。すべてを理解した上で、倒す必要がある、って感じだろうか…?
「でも、倒す以前に、情報がなさ過ぎるんだよなぁ…。」
理解しようにも、情報があまりにも少なすぎる。ネット上の情報は、生態、というより攻略情報、といったような感じなので、シャドウ・ファイターが何を思い、何を守っているのか、なんて書かれていない。むしろ、モンスターの意思を理解できる、僕にしか分かり得ないことであった。
「ツッピーで検索かけてみるか。」
ツッピーとは、話し相手にも検索エンジンにも、画像生成ツールにもなるAIのことで、この時代において多くの人が利用しているアプリケーションだ。
鳥形のアイコンがかわいらしく、何かを聞くと、この青い鳥ちゃんがパタパタと飛んでいき、情報を探してきてくれる。
無限にあるネット情報を自分で探し続けるのは不可能に等しい。ツッピーなら、スレッドに出てきた噂程度の話も拾ってきてくれるはずだ。
「ん? 早速気になる話が出てきたな。」
それは数年前の新宿ダンジョンスレにあった書き込みだった。
「え、何? “変身”?」
どうやら、シャドウ・ファイターにとある言葉を言うと、変身するらしい、というものであった。
しかし肝心なその言葉はどこにも載っていないし、この書き込みをした人も「ワザ○プ乙」とか、「覚悟の準備をしておいてください!」とか、バカにされて終わっていた。その書き込み以外、めぼしい情報は見つからなかった。
「うーん。詰んだ、なぁ。」
僕は両手で顔を覆った。気づけば、最寄り駅に到着していた。
○
「ただいま~。」
『わふわふわふっ!』
家に帰ると、もふげが飛びついてきた。我が家は広めの一軒家。父さんと母さんが遺してくれた、大切な家だ。
「ただいま、もふげ! ただいま、父さん、母さん。」
僕はそっと、父さんと母さんの写真に触れた。青い全身鎧に身を包んだ父さんと、ローブマントを羽織った母さんが、“富士ダンジョン”で笑っている写真だ。
そう、僕の両親は探索者だった。それも、当時の“攻略組”の、トップ探索者だ。そんな両親も、とある事件がきっかけで命を落とした。
「もふげ~、今日は西城石井でオーク肉を買ってきたよ! 特売で安くなってたんだ~!」
『ッ!? わ、わふわふんっ!』
もふげが五本ある尻尾をぶんぶんと振り回して、プロペラのようになっている。あ、そうそう。もふげは何故か、尻尾が五本あります。
「もふげにもちゃんとあげるからね~。さて、生姜焼きでも作ろうかな。」
モンスター食材と呼ばれる、モンスター由来の食材は高級品である一方、スーパーなんかでも普通に売られている。
植物型モンスターから採取できる特殊な果実なんかもあったりして、地方によっては、その地域にあるダンジョンでとれる素材をふるさと納税の返礼品にしている場所も多い。
「世はまさに、ダンジョングルメ時代~、ってね。あ、ご飯炊いておかなきゃ。」
夕飯の支度をしていると、テレビから気になる話が流れてきた。トーク型番組のようだが、有名配信者がゲストとして招かれているようだ。
「本日はゲストとして、超人気ダンジョン配信者の武藤カイトさんにお越しいただいおております!」
「フン、よろしく頼む。」
むすっとした表情の長身なイケメンだ。白いコートが様になっている。
「武藤さんは“青龍”の二つ名でも知られる、超実力派の若手探索者です。普段はどのような活動をされているんでしょうか?」
「富士ダンジョン“密林エリア”で主に活動しているが、その他の中級ダンジョンに行くこともある。特殊個体や異常個体が出現した際の討伐も行っているからな。」
「富士ダンジョン、か。」
そう、富士ダンジョン。それは日本に存在している唯一の国家規模ダンジョン。富士山の中腹から頂上を飲み込むようにして出現した、塔型のダンジョン。
富士ダンジョン、と呼ばれているが、正式には日本ダンジョンという名前だ。内部はあまりにも広大かつ、出現するモンスターの数々はどれもが強力。「異世界が丸々ダンジョンとなっているのではないか」とさえ呼ばれている。
富士ダンジョン出現以降、山梨県と静岡県は大規模開発が推し進められ、現在では富士山一帯は「ダンジョン都市」と呼ばれるほどに発展している。
実際、富士山周辺の地域は「日本ダンジョン都」として、48番目の都道府県として登録されており、ここに日本探索者ギルド総本部が設置されていた。人口も爆発的に増加しており、探索者の聖地とも呼ばれている。
「いずれ行きたいけど、まだ実力不足かな。」
テレビでは武藤カイトの配信映像の一部をまとめたショート動画が流れ、実際に討伐した大型モンスターの素材などが並べられ、紹介されている。
ワイバーンの一種や、ゴーレムの一部らしき金属塊など、見ているだけで心が躍るような代物ばかりだ。しかし、かつて神話や伝説に登場したそれらのモンスターは、中規模ダンジョンに出現する野良モンスターと比較しても、その脅威は段違いだ。
富士ダンジョンに潜ることが許されるのは、ごく一部の探索者のみ。中級ダンジョンをクリアした一部の探索者のみが、その栄誉を賜れる。
富士ダンジョンに潜る者は“攻略組”や“攻略勢”と呼ばれ、尊敬の念を集める。さらにその中でも一握りの存在が、二つ名と呼ばれる称号を得ていく。
故に、多くの夢見る探索者にとって、富士ダンジョンに潜ることが生涯の目標となるのだ。
「栄誉とかはどうでもいいから、どんなモンスターがいるのか、実際の目で見てみたいなぁ。」
そう、僕にとって栄誉なんてどうだっていいんだけどね! お金をいっぱい稼ぎたいから富士ダンジョンを目指す、って人も多いんだろうけど、最近の僕はあいにく、あまりお金で困窮していない。
と、いうのも。仲良くなったモンスターたちが、いろんな素材を分けてくれたり、探索者の落とし物をくれたりするからだ。
例えば直近だと、マージクロウたちが巣の一部として使っていた、貴重なダンジョン産の香木の一種。ゴブリンメイジがなんとなく収集していた、探索者が落としたっぽいアクセサリー。吸血蝙蝠の抜け落ちた牙、なんかがそうだ。
中には貴重な物もあり、ダンジョンに潜るたびに5~10万ほどの収入を得られている。僕と、もふげだけの生活。一軒家だから家賃もない。故に、割と安定した生活を送れているのだ。
「よし、できた! もふげ、ごはんできたよ~!」
『わふわふーんっ!』
「よーし、いただきます!」
僕はまだ見ぬ富士ダンジョンや、新宿ダンジョン後半層、シャドウ・ファイターの正体について思いを馳せながら、オーク肉に舌鼓を打った。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




