第27話 恐ろしき影
「やばいぞ、斉藤っ! 囲まれてるっ!」
「ちぃっ! 高木を守れ、高木はポーションで回復後、広範囲の聖属性魔法を放ってくれ! そのあとは一点突破で脱出する!」
「わかりましたっ!」
俺たちは中級探索者パーティ、「ストレスフル」。ストレス発散のために同僚三人で始めた探索者パーティだ。
三人ともまあまあ才能があったのか、5年ほどかけて中級ダンジョンにも潜れるようになった。そんな中。パーティの紅一点である高木が聖属性魔法のスキルを獲得した。俺たちはこの魔法を使ってアンデッドを一掃し、魔石でがっぽりもうけてやろうと画策した。一刻も早く、会社を辞めたかったしな。
ところが、だ。
ご覧の通り、今は大ピンチ。舐めてかかった訳じゃ無いが、彷徨う影は想像より手強く、何より数が多すぎた。聖属性魔法の多段攻撃、聖属性付与魔法を受けた前衛二人、比較的高価な魔力ポーションも2本用意した。
最初はうまくいって、周囲の影を一掃できた。しかし、これが良くなかった。調子に乗った俺たちは、欲を出して長居してしまった。
その結果が、これだ。
「ホーリー・ゾーンッ!」
高木の聖属性魔法が発動する。詠唱はイメージしやすい、それっぽい名前を言ってるだけだ。しかし、その効果は大きい。俺たちを中心に、半径15m以内の彷徨う影達が、一瞬で消滅した。
「行くぞっ!」
「俺が先導するっ!」
シーフの田中が戦闘を走る。走りながら、両手のナイフで影達を斬り裂いて行く。俺はその後ろから、高木を守りつつ田中のうち漏らしを斬り伏せていく。聖属性が付与されているおかげで、一撃で倒すことが出来る。しかし。
「さ、先が見えねぇっ!」
「田中、足を止めるなっ!」
俺たちは走り続けた。しかし、影達は次々と現れ、さらに数を増していった。全員レベルは23程度。100mを5秒で走破でき、その速度のまま5分は走り続けられる。しかし、それでも体力に限界があった。
「ぅあっ!」
戦闘を走る田中がふらつき、ナイフを取り落とした。足が止まる。その瞬間、影たちが押し寄せてくる。田中が、影に触れられた瞬間。
「ひ、ひぃいいいいいいいやぁあああああああああっ!!」
田中が発狂した。そう、彷徨う影の精神攻撃だ。精神攻撃を使ってくるモンスターは少ない。そのため、俺たちはその脅威を測り間違えていたのだ。
「落ち着け、田中ぁっ!」
「田中さんっ!」
俺は死に物狂いで影を斬り続けた。背後では高木が、残り少ない魔力を使って必死に聖属性魔法を放っていた。しかし、影達は次々に現れて、手を伸ばしてくる。
俺の目に、汗が入った。手元がぶれる。
「しまっ――。」
影の手が俺に触れた、瞬間。
『あはははははははははははははははははは!!!』
影達が、影達の顔が、恐ろしい笑顔に変わった。そして次の瞬間、その顔は。俺の友人の、死に顔に変わった。すべての影が、友人の死に顔に。モンスターにやられ、苦しみ抜いて死んだ、苦痛にまみれた、あの、顔、か、お。
「うわぁああああああああああああっ!!!」
いやだいやだいやだいやだいやだ。
こわいこわいこわいこわいこわい。
助けてくれ、誰か、誰か助けてくれ!
「きぃいいいいいやぁああああああああっっ!」
すぐ近くで、誰かの悲鳴がこだました。でも俺は、そんなことはどうでもよかった。今すぐにでも、この場から逃げ出したい。はやく、はやく、誰か、助けてくれ!
はっ、と。
正気に戻った俺は。見てしまった。
四方八方を、隙間無く埋め尽くす影達を。
あはははははははははははははは!!!
確かに、笑い声が聞こえたんだ。
その笑い声は、俺が、俺たちが、あげたものだった。
終わった! 終わった! 終わった!
死んだ! 死んだ! 死んだ!
影達の手が、一斉に伸びてくる。俺たちに触れる。
その、瞬間。
おぞましい、気配を感じた。いや、それだけではない。これは、そう。魔力だ。尋常では無いほどの、魔力。
影達が一斉に、魔力が流れてくる先を見つめた。そして、ぞろぞろとその方向へと向かって行く。
俺たちはただ、その様子を眺めることしか出来なかった。そうして、影は一人もいなくなった。全員が、魔力が流れてくる方向へと向かったのだ。
「助かった、のか…?」
呆然と、つぶやいた。
「田中、高木、大丈夫かっ!?」
俺は仲間達に目を向けた。田中はうつろな目でぶるぶると震え、高木はへたりこみ、失禁していた。
「く、くそ。なんなんだよ、マジで。なんでこんな場所で、この音が聞こえるんだ…?」
「音?」
田中は聴覚強化と索敵スキルを持っているため、俺たちのパーティでは斥候も兼ねていた。故に、俺と高木では聞き取れない何かが聞こえているのかもしれない。
「聞こえないか? こんな場所で、スーパーなんかでよく聞く、呼び込みの音楽が聞こえるんだ。はは、これが幻聴、ってやつか?」
「…おそらく、幻聴だろう。まさか精神攻撃があれほど恐ろしいものだとは。田中、高木、立てるか? 夜が明けるまで、どこかに身を隠してやり過ごそう。」
こんなダンジョンの奥地で、”呼び込みさん”の音が聞こえるわけ無い。俺たちは結局、近くの廃墟に身を隠して、夜明けを待った。
影達が現れることは、なかった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




