第2話 スライム
「何か、いる…?」
興奮して完全に忘れていたが、ここはダンジョン化している。
もちろん、モンスターも生息しているはずなのである!
「こ、怖くないよ~…? で、出ておいで~…?」
スマホのライトを片手に、ゆっくりと物音がした方へ近づいていく。
ぺちゃぺちゃ。
岩陰に潜んでいたのは。
「わぁー! スライムだ!」
薄緑色で、べたっとしている粘着質な体。
半透明の体はうっすら体内が透けており、よく見れば赤い核部分が見える。
「モンスター、生のモンスター、初めて見た!」
興奮で手が震える。ゆっくりと近づくと、どうやらスライムは洞窟内のコケを食べているようだった。
「そっか、洞窟内は湿度が高い。だから、スライムが生息しやすいんだ。」
スライムは体の98%以上が水分で構成されている。故に、水辺や洞窟、湿地帯など、湿度が高い場所を好む傾向がある。
『ゴハン、ゴハン』
「うわっ!」
急に、脳内に直接意思のような物が流れ込んできた。
「スライムの、意思…? おなかがすいてるのかな。」
僕はポケットから、チョコスティックバーを取り出した。
「スライムは雑食性。しかも体全体の細胞で食事、分解、吸収をすることができるモンスター。チョコバーも食べてくれるはず…!」
チョコバーを半分に折り、スライムに近づけてやると。
ぺちゃぺちゃっ!
「わっ! 食べてる!」
スライムがチョコバーに覆い被さるようにして、勢いよく消化し出した。
そして、消化が終わるとぷるぷると震えだした。
「ど、どうしたの!?」
『フエル、フエル』
次の瞬間、スライムの体が半分に分裂した。
『『ゴハン、ゴハン』』
「スライムは分裂する形で増殖するって書いてあったな。そうか、スライムにとってチョコバーは栄養が豊富なエサだったんだ。だから、分裂に必要なエネルギーを即座に吸収して、この一瞬で増殖することが出来たんだ…!」
『スキル獲得:スライム』
「や、やった! スライムのスキルゲット!」
さっそく、スライムのスキルに意識を集中してみると。
「なになに、体のどこからでも消化吸収できる、体の一部を不定形にできる、体の一部を再生できる…。え、マジ?」
僕は手に持っていた、半分のチョコバーを直接手で握ってみる。
「き、吸収するぞ~…!」
念じてみると、なんとチョコバーが体の中にズブズブと飲み込まれていった。
「お、おぉ…。 人前じゃ絶対使えないなぁ。」
クセ付いたら非常にまずいことになる。
クセになってんだ、食べ物直接吸収するの。こんなセリフ、言いたくなさ過ぎる。
「そうだ、傷も再生できるかな? 再生するぞ~…。」
そう念じてみると、殴られて出来た顔の腫れや、体中のあざと痛みがスーッと消えていった。
「す、すごい…! 医者いらずじゃないか…!」
まぁ、風邪とか病気みたいなものには効かないっぽいけど。
『『ゴハン、ゴハン』』
二匹になったスライムは、洞窟に生えたコケをもちゃもちゃと吸収しながら、ゆっくりと前に進んでいる。
「へへへ、こうやって見ると、かわいいなぁ。飼育してみたいけど、無理なんだよなぁ。」
そう、モンスターを飼育することは出来ない。
特定外来生物のように、法律的に出来ないのでは無く、一定以上の魔力が存在している環境で無いと、弱って死んでしまうのだ。
現状、魔力を自動発生させ続けるような装置は存在しない。国の研究機関とかになら、もしかしたらあるかもしれないけど、一体いくらするのやら。
それに、僕の家には犬がいる。名前は「もふげ」。毛がもっふもふだからもふげだ。スライムなんて飼っていたら、もふげのおもちゃにされてしまう。
「かわいそうだけど、この子たちもいずれは死んでしまうんだろうな。」
零細ダンジョンは、あくまで一時的に発生した期間限定のダンジョンに過ぎない。
魔力が流れ出てしまえば、ダンジョンは自然に消滅し、そこで発生したモンスターも死んでしまう。
「僕にはどうしようもできない。ごめんね、スライム君たち。」
何も知らない哀れなスライム君たちは、終わりの日までせっせとコケを食べ続けるのだろう。
洞窟内を見回ったところ、あと数匹のスライムを見つけることが出来た。
どれも同じ種類のスライムだったため、もしかしたらこの洞窟内のスライムは、一匹のスライムから誕生したのかもしれない。
この日、僕は満足するまでスライム君たちの観察を続けた。もちろん、写真も撮りまくった。スライムだけで500枚以上も写真を撮ってしまっていた…。
この日から一週間、僕は放課後この洞窟に通い続けた。本当は通報した方がいいんだろうけど、この場所に立ち入るのは僕くらいのものだし、スライムは危険度も低い。興味の方が勝ってしまった。
一週間ほどで、スライムは20匹程度まで増えた。ゴハン、とフエル、以外の意思を感じることは出来なかった。
さらに数日後。いつものように洞窟を訪れると、零細ダンジョンは消失し、スライムたちもまた、その姿を消していた。
――――――
スキル:スライム
①全身消化器官
有機物を全身で消化出来る。消化は即時可能で、速やかに全身に栄養供給される。
②不定形
体を一部、不定形にすることが出来る。
③再生
体の一部を再生出来る。全体の2割を超える損耗については、追加の栄養が必要となる。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
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