第19話 吸血蝙蝠
『ゲギャギャーーーーーーッ!』
「な、なんだ!?」
ジャイアントラットたちに別れを告げて、散策を再開してから数分。突如、何者かの断末魔が響き渡った。
強化された聴力と脚力で、その声の発生源へ向かうと、驚くような光景が広がっていた。
「あ、あれは、吸血蝙蝠か!」
一匹のゴブリンに、十匹近くの巨大コウモリが襲いかかっていた。全身から血を流し、ふらふらとしながらも、必死に棍棒を振り回していたゴブリンだったが、やがて力尽き、地面に倒れ伏した。
その瞬間、周囲を舞っていた吸血蝙蝠たちが一斉に群がり、鋭い牙を突き立てた。密集する蝙蝠の羽、その隙間から見えていた緑色の腕は、ピクピクと痙攣しながら助けを求めるように空を掴んだあと、ぱたり、と倒れて動かなくなった。
「うわぁ、これぞ弱肉強食…。モンスターがモンスターを襲ってるところ、初めて見た。」
鉄臭さとアンモニアのような臭いが、こちらまで漂ってくる。この臭いにつられて、さらに多くの吸血蝙蝠が集まってきていた。
吸血蝙蝠はその名の通り、モンスターや人間の血を吸う巨大蝙蝠だ。大きさは翼開長70cmほどで、積極的にモンスターや探索者を襲う。
キー、キー
不思議な音が聞こえたと思った瞬間、僕の足下がぐらぐらと揺れるような錯覚を覚えた。
「こ、れは…!」
超音波だ。吸血蝙蝠は強力な超音波を用いて、仲間との会話や獲物、障害物、敵の察知、そして敵への攻撃を行うのだ。この超音波を食らってしまうと、耐性が無い者は平衡感覚を失い、強烈な吐き気などに襲われてしまう。
そうなると、まともに戦うことも出来なくなってしまい、最終的には先ほどのゴブリンのような状態になってしまうのだ。
故に、この吸血蝙蝠は、この新宿ダンジョン前半層で最も恐れられている。
「根性ぉ~~~~~~!」
根性で持ち直した僕は、ゆっくりと吸血蝙蝠たちに近づいていく。バサバサという羽音、キーキーという鳴き声が鼓膜と三半規管を揺らす中、彼らが僕の接近を感知した。
『エモノ!』
『エモノ?』
『ニオイ、ヘン!』
「ふっふっふ、僕は獲物ではない。僕はそう、コウモリマンだっ!」
僕はマントをバサァッ!と翻した。特に意味はない。変な名前を突然名乗ったのも。ただ、なんとなくそんな気分だっただけだ。
『コーモリマン?』
『エモノ?』
「ふっふっふ、僕は知っているよ? 君たちが本当に欲しているものを…。」
『ナニガイイタイ!』
『コーモリマン!』
この子たち、意外とノリがいいな…。
「君たちが本当に求めている物。それは、これだァッ!」
僕はアイテムボックスから、大量の果物を取り出した。そう、血ではなく、果物である。バナナやオレンジ、ミカン、スイカにパイナップル。マンゴーとかは高かったのでスルーした。
『『『コ、コレハッ!』』』
周囲を舞っていた吸血蝙蝠たちも、フルーツを出した途端にこちらを振り向いた。あまりにも衝撃的だったのか、何匹か正面衝突していたけど、大丈夫だろうか…。
「君たち、本当は果物が大好きなんでしょう…? この周辺、たま~にミカンっぽい果物が成るだけだもんね…?」
そう、吸血蝙蝠たちは実はフルーツが一番好きなのだ。と、いうのも、彼らは「物を噛んで食べる」のではなく、「液体を吸い取る」という捕食方法をとっている。歯自体はあるので、噛み噛みして食べること自体は可能なのだが、柔らかいものでないとうまく消化できない。
このダンジョンにおいて栄養価の高い液体は、他の生物の血のみ。ごくまれに、ミカンに似た果実やバナナっぽい果実が生育するが、数は非常に少ない。
「探索者が携帯食代わりに持ち込んだバナナとか、わざわざ昼間に奪おうとするくらいだもんね…?」
新宿ダンジョンだけでなく、吸血蝙蝠が出現するダンジョンにおいて、「昼間に襲われた」という事例が何件か報告されていた。それらの襲撃については、「果物を食べているときに襲われた」という共通点があったのだ。
本来夜中に行動するはずの吸血蝙蝠が、わざわざ昼間に襲撃する。それほどの執着心を、彼らは持ち合わせているのだ。
「さぁ、好きなだけ食べるといい! そして称えよ、このコウモリマンを!!」
『『『キー! コーモリマン! コーモリマン!』』』
こうして僕は、新宿ダンジョンにおける、吸血蝙蝠たちの王となった。なんか、流れでこんな感じになっちゃったけど、後悔はない。
吸血蝙蝠たち、よく見たら犬みたいな顔つきでかわいいんだよね。羽はツルツルした感じだけど、体はもふもふしてるし。なんか、もふげを彷彿とさせる。帰ったらもふげの散歩してあげないとなぁ。
『スキル獲得:吸血蝙蝠』
手ずからバナナを剥いて食べさせてあげたり、マントをバサバサしたり、超音波の使い方を教えてもらったりしてから、僕は次の目的地へと向かった。
――――――
スキル:吸血蝙蝠
①吸血
血を即時魔力に変換できる。
②超音波
超音波を発することで、索敵や三半規管への攻撃、蝙蝠系の魔物と直接会話ができる。
③嗅覚強化
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




