第11話 『人肉』
「人肉なんて、どうやって手に入れればいいんだ…。」
ゴブリンソルジャーに求められたのは、まさかの人肉。ゴブリンにとって、最高級の肉が、人肉とのことだった。まさかの要求に即答できず、いったん保留として、僕はダンジョンを後にした。
「うーん、病院、に行って手に入るわけでもないし、ダークウェブ、なんて使ったことないし危険だし。うーん、うーん…。」
うめきながら更衣室で着替え、ギルドを出る。外はすでに夕方。思考の渦に飲まれながら電車に乗り、最寄り駅に到着した。
家に向かって歩く。日は暮れ、人通りはない。
バチバチバチッ!
不意に、その音が聞こえて。僕は直感的に、回避行動をとった。
「<サンダー・ショット>ッ!!」
ズダァンッ!
先ほどまで僕がいた場所に、雷が落ちた。
「チッ、外したか。」
「なっ!? お、お前は…、カツヤ!?」
「久しぶりだなぁ? クソゴロー。」
咄嗟に逃げようとしたが、背後から近づく二つの足音。
「おいおい、どこに行こうってんだよ。」
「逃がさねぇぜ? クソゴロー。」
シンジとダイだ。挟み撃ちにされた。
「い、いきなり魔法で攻撃するなんて、犯罪行為だぞ!」
「あ? うるせえよ。お前はモンスターなんだから、魔法で攻撃しても逮捕されねーし。」
ぎゃははははは、と、下品な笑い声が響き渡る。
「な、何を言って」
「見たぜ? お前の配信。」
僕の体が、びくり、と跳ねた。
見た? 僕の配信を?
「お前、モンスターなんかとつるんで、気持ち悪ぃ。虫の次はモンスターか。害虫から害獣、ついにはモンスターに進化したってか?」
じりじりと、三人が近づいてくる。
「“探索者として”、人間のフリしたモンスターは、放っておけねぇよなぁ?」
「そうそう。俺たちは正義の探索者なんだよ。」
「人の皮を被ったモンスターめ、成敗してやるぜ。」
三人が、武器を抜いた。
カツヤは長剣を、シンジが槍を、ダイは大盾を構えた。
「ほ、本気で言ってるの?」
「あぁ、本気も本気、大本気だぜ。だが俺たちも鬼じゃねぇ。情けをくれてやる。」
…情け?
「お前、犬飼ってただろ? あの犬殺せ。」
「…は?」
「あの犬殺したら、俺たちの奴隷にしてやるよ。あ、奴隷になったら毎日パンツ一丁でギルドまで来いよ? 囮として使ってやる。よかったなぁ? モンスターと近くでふれあえるぜ?」
「ぎゃははは! カツヤ、それマジ最高だわ!」
「よかったなクソゴロー、犬殺すだけで命が助かるんだぜ?」
何を言ってるんだ、こいつらは。
もふげを、殺せと言ったのか?
そんなこと、許せる訳がないだろ。
「そんなの、断」
「<サンダー・ショット>ォッ!」
バリバリバリィッ!
「がぁあああああああああっ!!」
僕の体を、雷撃が貫いた。全身から煙が上がり、服は焦げ付いている。
意識が、飛びそうだ。
「お前さぁ、立場分かってる? 犬殺すか、自分が死ぬか、選べって言ってんだよ。あ、お前殺した後にあの犬も俺が殺すけどな! ぎゃはははははは!」
「オラオラ、早く選べって言ってんだよッ!」
シンジの槍が、僕の体を切り刻む。血しぶきが舞い、鋭い痛みが走る。
「犬殺せ! 犬殺せ!」
ダイが手を叩いて煽る。
「「「犬殺せ! 犬殺せ!」」」
カツヤが、シンジが、笑いながら手拍子をする。
——もう、いいか。
「おい、いい加減決めたか?」
「…ああ、決めたよ。」
「お前が死ぬか、犬を殺すか。どっちだ?」
「…。」
うん、決めた。もう、うんざりだ。
「さっさと言えや、このクソゴローがっ!」
槍が迫る。
僕は、“笑った”。
『お前らが死ね、ニンゲン。』
全身に、黒いまだら模様が現れる。噛みつきイナゴのスキル、凶蝗化。
攻撃力が上昇し、性格が獰猛に変わる。
ビュッ!
風切り音。
ドチャッ
ガラガラン
シンジの槍が、地面に落ちた。
「え?」
シンジの両腕から、血が噴き出した。いや、腕が合った場所から。
「ぎ、ぎぃいいいいやあ」
「うるせえんだよ。」
ズパンッ
腕を刃に変質させ、関節は不定形にする。
鞭のようにそれを振るうと、シンジの首が飛んだ。どう、っと。体が遅れて地面に倒れた。
アスファルトが、赤く染まっていく。
「う、うわぁあああああああああ!!!!」
ダイが恐慌し、シールドバッシュを仕掛ける。鋼鉄製かな?まるで自動車が突っ込んでくるみたいな迫力だ。
でも、関係ないね。
僕は中腰になり、大盾に向かって思いっきり脚を振り抜いた。
バツゥンッ!
強化された僕の脚力によって、ダイは大盾ごと真二つになり。
数メートルほど宙を舞って、べちゃっという音と共に地面に落ちた。
「<サンダー・ショット>ォッ!」
ズダァンッ
僕の体を、雷光が焼く。
「サ、<サンダー・ショット>ォッ!!」
ズダァンッ!
何度も、何度も。
「は、ははっ! モンスターが、調子に乗りやがって! クソが、ダイとシンジを殺しやがった! クソゴローの野郎、ぶっ殺すだけじゃダメだ! ただじゃおかねぇ、あいつの家ごと、全部ぶっ壊してめちゃくちゃにしてやるっ! 犬もあの世に送ってやるッ!」
「僕のこと、勝手に殺さないでくれる?」
全身が黒焦げになったが、無駄だ。メキメキ、ミチミチと音を立てて体組織が再生していく。
「サ、サンダー」
「飽きたわそれ。」
腕を振るう。カツヤの左腕が切断された。
「うがぁあああああああああああ!!」
「近所迷惑だよ。まぁ、このあたりには僕しか住んでないんだけど。」
蹲るカツヤに、ゆっくりと近づく。
「探索者になるとき、教わらなかった? 探索者に襲われた場合、これに反撃して殺してしまっても、正当防衛が成立するって。まぁ、どうせ聞いてなかったんだろうけど。」
「フーッ…! フーッ…!」
カツヤが血走った目で、僕を見る。気に入らないなぁ、ニンゲンごときが。
「あ、いいこと思いついた! お前が殺したカブトムシ、覚えてる? カブヨシ、って名前だったんだけど。お前も、同じ目に遭わせてやるよ。」
「ぁあああああああああああああ!」
カツヤが、右手で握った長剣で斬りかかってきた。やぶれかぶれの攻撃。避ける必要すら感じない。
僕はまた、腕を振るった。
カツヤの右腕が、切断された。
「ひぃいいいいいいいいいいい!!」
「あはは、“はい、二本目~”ってね。」
べちゃり、と音を立ててカツヤの右腕が地面に落ちた。
「お、おまえ、パ、パパに言いつけてやるッ!! パパが動けば、お前なんて」
「はぁ? パパぁ? お前はもう、二度とパパには会えないよ。」
後ずさるカツヤに、目線を合わせる。
「お前は今日、ここで死ぬんだから。」
ブシュッ
僕の腕が、カツヤの腹を貫いた。
ゆっくりと、そのままカツヤの体を持ち上げる。
「ごぼぼっがふっ、やめ、だずげでっ!」
残った両足を、必死にバタバタと揺らす。
「あははははは! 助けて欲しい? 助けて欲しいの?」
カツヤは涙目で、頭をぶんぶんと縦に振る。
「じゃあ、僕の奴隷になってもらおうかな。あーでも、囮とかいらないしなぁ。盾、もいらないし。」
ゆっくりと、カツヤの体を下ろして、僕の目線とカツヤの目線を合わせる。
「お前、やっぱいらねーや! ばいばーーーーーーーい!!!!」
僕はカツヤを、上空に投げ飛ばした。
「いやだぁああああああああああああああああああああああ!!!」
腕を振るう。
両足が切断された。
腕を振るう。
胴体が切断された。
腕を振るう。
首が切断された。
腕を振るう。
腕を振るう。
腕を振るう。
べちゃべちゃべちゃべちゃべちゃ。
「はぁ~、スッキリした! うわ、汚いなぁ、もう。」
体に付着した血液や肉片を、吸収する。
「さてと。これで人肉も手に入ったし、なんとかなりそう!」
ニンゲンどもの死体を、アイテムボックスに収納していく。
地面の血液は残しておくとまずいので、体を不定型にして吸収していく。
「嫌だなぁ、あんなやつらの死体を吸収するの。まぁでも、仕方ないよね。体の再生にカロリー使っちゃったし、ちょうど良いか。」
これで周囲は元通りになった。
「さーて、早く帰って、シャワー浴びよっと!」
僕はスキップしながら、家路を急いだ。
――――――
スキル:モンスター
①モンスターと意思疎通できる。
②モンスターの生態を深く理解し、信頼関係を築くことで、そのモンスターの持つスキルを獲得できる。
③モンスターに襲われにくくなる。
④“適応”が生じない。
⑤『思考がモンスターに近くなる。』
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




