↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/35

四、女神の御姿

村人たちが、希望に満ちた視線で自分を見上げているのを見て、トールは「今こそ好機」と直感した。

これは布教の絶好のタイミングであり、フレイヤ女神の教えと恩恵を広く伝える千載一遇の機会——そして、フレイヤ本人が最も見たくない光景でもあった。


まだ恐怖の余韻が残る村人たちは、震える身体を押さえながら、トールが高く掲げる『純潔の聖典』を見上げていた。

その目は真剣そのもので、次に発される言葉を一言も聞き逃すまいとしている。


トールは軽く咳払いをし、声は荘厳に、目は力強く、全身から聖人降臨のような雰囲気を漂わせながら、うっとりと語りかけた。


「聖典に曰く——腹が減った時は、こっそり台所に忍び込んでお菓子を食べるべし。これこそ正義である!」


「おお……?」


「なるほど……いや、どこかおかしくないか?」


「女神様、懐が深すぎる……盗み食いまで救済してくださるとは……」


村人たちは互いに顔を見合わせながらも、先ほど目の当たりにした奇跡の影響もあり、その言葉を妙に納得してしまう。

やがて小さなどよめきの後、彼らの目には「これは真理だ」という確信の光が宿っていった。


一方その頃——


フレイヤは顔を両手で覆い、しゃがみ込み、声を震わせながら叫んだ。


「ちがうぅぅぅ!!それ昔、私がお菓子盗み食いして怒られた時に、自分で書いた言い訳だからぁ!!教義じゃないからぁぁ!!」


しかしその叫びは誰にも届かない。届いたとしても、すでに耳には入らなかっただろう。

村人にとってそこにいるのは救済者トールであり、彼が掲げるものこそ「聖典」なのだから。


「聖典にはさらにこうある!」


トールはページをめくり、歪な文字を指さした。


「一日に三度、自分に向かって笑えば奇跡が起こる!これが真理である!」


「なるほど……!」


「だから私、最近ついてなかったのか……笑ってなかったから……!」


「女神様万歳!!」


「やめてぇぇぇ!!それただの自己暗示なんだからぁ!信じないでよぉ!」


フレイヤの悲鳴は虚しく響く。


しかしその瞬間——彼女の身体に、かすかな、しかし確かな力が流れ込んだ。


信仰の力だ。

純粋で、敬虔で、甘やかな力。

その起源が誤解であろうと、嘘であろうと、その力は確かに神へと届いていた。


「……どうして?」


フレイヤは呆然とする。


「全部デタラメなのに……どうしてこんな信仰が届くの……?」


その横でトールは気づかず、聖典の朗読に酔いしれている。村人たちも恍惚とした表情で頷き、中には跪く者まで現れ始めた。


「まずい……このままでは信仰が完全に歪む……!」


フレイヤはせっかく得たばかりの神力も味わう間もなく、歯を食いしばった。


「こうなったら……やるしかない!」


彼女は両手を組み、低く呪文を唱え始める。


祝福の神聖な鐘の音が鳴り響き、周囲の空気が震えた。

その瞬間、村人たちの前に眩い光が広がる。


「おおおっ……!」


村人たちが見上げると、光の中に一人の女神が現れた。


高くしなやかな身のこなし、風に揺れる金の長い髪。神聖にして威厳に満ちた眼差し。その背には眩いばかりの翼が広がっている。


それが、フレイヤ本来の神格の顕現——堂々たる女神の姿だった。


「これが……本当の女神様……!」


村人たちは息を呑み、涙を流す。


「子らよ。惑わされてはいけない。私はフレイヤ。愛と豊穣の女神。あなたたちを導き、守護する者」


その時だった。


トールが聖典を掲げ、叫んだ。


「皆さん、騙されてはいけない!これは偽物だ!」


「なっ……!?」


フレイヤの幻影が思わず叫び返す。


「誰が偽物だと言ったのよ!?」


村人たちもどよめく。


トールは冷静に聖典のページを開き、そこに描かれた歪な落書きを指差した。


頭が異様に大きく、体は小さく、目は潰れた魚のような女神の絵。

その横にはこう書かれている。


『美しいフレイヤ様 今日もとても可愛い』


トールは断言する。


「聖典に描かれた女神の姿はこれだ!この歪んだ幻影こそ偽物。こちらの聖典こそが真実である!」


「そ、それ私が子供の頃に描いた落書きでしょ!!よくもそんなものを証拠に——!」


フレイヤは顔を真っ赤にして絶叫した。


「本女神、こんな顔じゃないんだからぁぁぁ!!」


しかし村人たちは再びざわめき始める。


「でも……聖典にはそう描いてある……」


「今の女神様も確かに荘厳だけど……」


「いや、やはり聖典こそが神の言葉。ならば聖典の絵こそが真実では?」


「もしかして……これは試練なのでは?」


「そうだ!我々は外見に惑わされてはいけない。女神は歪んだ姿で現れることで、本質を見よと教えているのだ!」


「なるほど!だからこそ、あの歪な姿こそが女神様の真の御姿だったのか!」


「女神様は慈悲深い……わざと歪な姿で示してくださっている!」


「違うって言ってるでしょぉぉぉ!!」


フレイヤの叫びはもはや悲鳴に近かった。幻影であるにもかかわらず、その胸は激しく上下し、今にも気絶しそうだった。


「このバカども!本女神はそんな顔じゃないのよぉ!」


トールは確信に満ちた表情で言い放つ。


「偉大なる女神様、これはきっと試練なのですね。たとえ今は逆のことを仰っていようとも、聖典に記された真実を私は決して疑いません。私は絶対に騙されませんよ!」


「もう……腹が立って頭がどうにかなりそうよぉ!うわああああああああ!!」


フレイヤの幻影はついに限界に達し、崩れかけながら叫んだ。


その背後で、信仰値だけが静かに増えていく。


信徒:23+1(?)

領域:幸運

神術:造水術、武器変化、治癒小傷、幻化形象

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。