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墜落開始

神の心臓たるコアの破壊。それは、この空に君臨していた巨大浮遊構造物の「死」を意味していた。

無尽蔵のエネルギー供給が途絶え、重力制御システムが完全に沈黙する。高度一万メートルの宙に浮いていた数百万トンもの質量が、突如として地球の引力に捕らわれ、大気の壁を削りながらゆっくりと地上への墜落を開始した。


「……落ちるぞ」


足元の床が急激に傾斜し、和泉は白銀に染まった髪を揺らして呟いた。

このデカブツが落ちていく先は、彼らの故郷である九州だ。


一方、外装付近のベースキャンプ。

そこで和泉たちを待っていた片倉たち百二十名の状況は、まさに極限の防衛戦の最中にあった。


激戦の末、兵士たちの多くは搭乗すべき「機体」を完全に喪失していた。だが、アグレッサー大隊のしぶとさと言うべきか、幸いにも大半のパイロットに命に関わるような怪我はなかった。

機体を失った無傷の兵士たちは、一部の負傷者を庇いながら、装甲を剥がされて剥き出しになったコアと、そこに留まるパイロットたちを覆い隠すように幾重にも身を寄せ合い、肉壁となって守り続けていた。


天井が剥がれ落ち、火花を散らして巨大な瓦礫が降り注ぐ。

その致命的な落下物を弾き飛ばし、ベースキャンプを死守していたのは、辛うじて稼働状態にある数機のボロ屑のような機体だった。

完全に破壊された機体から部品を剥ぎ取って無理やり繋ぎ合わせた「共食い整備」。そして、コアの剥き出しの回路にパイロットの神経系を直結させ、互いの命とエネルギーを食い合いながら動かすという狂気的な調整。その満身創痍の数機が、文字通り身を挺して仲間への直撃を防いでいるのだ。


いつ足場が崩落して空へ放り出されるかもわからない恐怖の中。彼らは命を削って絞り出した微弱な電力のすべてを、通信アンテナへと注ぎ込んでいた。


「ノイズを拾え……! 道標の灯りを絶対に消すな!」


和泉たちが暗闇の中で迷わないように。ここが帰る場所だと教えるために。彼らは崩壊する母艦の中で、ひたすらに虚空へ祈りの通信を送り続けていた。


『――待たせたな! お前ら、全員生きてるな!』


ノイズの海から飛び込んできたその不遜な声に、片倉たちの瞳に確かな光が戻る。

直後、崩落する回廊の奥から、ボロボロになった三十機の牙たちが瓦礫を吹き飛ばして飛び出してきた。


「大隊長……ッ!」


満身創痍の源田たちを引き連れ、和泉がベースキャンプへと帰還を果たす。だが、再会の歓喜は、突きつけられた現実によって一瞬で引き締められた。


母艦はすでに大気との摩擦で真っ赤な火の玉となりつつあった。


「大隊長、残された機体で逃げようにも、大半が機体も脱出装置も失っています。それに……」

瓦礫を切り払っていた片倉が、絶望的な事実を口にする。

「このデカブツがこのまま落ちれば、衝撃波で九州が消滅します」


逃げるための足はない。仮にあったとしても、彼らが命を懸けて守ってきた故郷が滅びる。絶対的なタイムリミットが迫る中、轟音に揺れる甲板の上で、和泉は一切の迷いなく言い放った。


「誰も置いてはいかねえ。全員生きて帰る。その上で、このデカブツを九州には絶対に落とさせねえ」


「ですが、どうやって……!」


「全員で考えろ! お前らの頭なら、絶対に何か手が見つかるはずだ!」


和泉の檄が、百五十名の戦士たちの心に火をつけた。

機体を失った者も、血を流すパイロットも、生き残った三十機のメンバーも、全員が血走った目で解決策を求め、泥臭い思考を巡らせ始める。


だが、部下たちを力強く鼓舞しながら、和泉は自らの内側――機体と完全に融合し、沈黙を守っている『紫の王』へと、裏で密かに通信コンタクトを取っていた。


(……聞こえてるか、王様。気休めを言ってはみたが、物理的にどうしようもねえ状況だ。あんたらの船だろ。このデカブツを落とさねえ方法、当然何か知ってんだろ?)


落下限界点まで、残りわずか。

百五十名の知恵と、異星の王の記憶。すべてを巻き込んだ極限の生存戦略が、轟音の中で幕を開けた。

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