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戦いの終わり

王の全存在を懸けた力と、和泉の不屈の意志。二つの魂が完全に融合した『紫』の機体から放たれる規格外のオーラが、漆黒の空間を暴れ狂う。

だが、巨大構造物の心臓たるコアの防壁は、彼らの想像を遥かに絶する強固さだった。


『無駄だ。どれほど吠えようと、我には届かない』


コアが淡く明滅するたびに、空間そのものが軋みを上げる。

敵が繰り出してきたのは、ミサイルやレーザーといった物理的な兵器ではなかった。空間の「重力」と「圧力」の絶対的な支配。和泉の機体が近づこうとするたびに、何万トンもの見えない質量が全方位から押し潰すようにのしかかり、機体の駆動系を致命的に圧迫する。


全身の骨が軋み、眼球が裏返りそうになるほどのG(重力加速度)。王の力で機体性能が底上げされていなければ、一瞬でスクラップにされていたはずだ。


「がっ……、あああああッ!」

和泉は歯を食いしばり、スラスターの出力を限界まで引き上げて重力の壁に逆らう。だが、あと数歩の距離が、永遠のように遠い。


『滑稽だな。かつて徒党を組んだ我々に玉座を追われた時も、そして今も……貴様はずっと、我々に勝てないままだ』


コアから放たれる無機質な嘲笑が、和泉の脳髄を直接揺らしてくる。


『圧倒的な力を持とうと、所詮はお前も王も孤独な敗北者。……それに、まだそんな脆くちっぽけな「人間の器」に縛られているお前では、この絶対的な防壁を前に、塵となって消え去るしかない』


指輪を砕き、人を超越する力を受け入れたはずの和泉。しかし、敵の演算システムは、和泉が今なお人間としての心――仲間との絆という「弱さ」を残した器であることを見透かし、冷酷にそう断じた。


さらに強力な重力場が展開され、紫の機体が床へと縫い付けられそうになる。

機体の各所から限界を知らせるアラートが鳴り響き、視界が赤く明滅し始めた。ここまでか――敵がそう確信した、次の瞬間だった。


『――何一人で背負い込もうとしてんですか、大隊長』


通信機からではない。データリンクのノイズの奥底から、確かに聞こえた声。

それは、この空を取り戻すための過酷な戦いの中で、無念と共に散っていった山本たちの声だった。


和泉の網膜に、炎の中に消えた仲間たちの笑顔が、言葉が、そして熱い想いがフラッシュバックする。

生き残った伊達や源田たちだけではない。死んでいった山本たちもまた、誰一人として和泉を置いてはいかなかった。人間の器だからこそ持ち得る、彼らが命を削って繋いだ無数の「線」が、今、和泉というひとつの「点」に集約されていく。


『大隊長の背中は、俺たちが押します。……行ってください!』


「……ああ。そうだったな」

和泉の瞳に宿る紫電の光が、さらに強烈な輝きを放つ。

「俺は……一人じゃねえッ!!」


死んでいった仲間たちの魂が、機体のコアと共鳴し、和泉の限界を物理的に突破させた。

紫のオーラが機体の表面で鋭い流線型へと形を変え、空間を支配していた絶対的な重力と圧力を「斬り裂き」、完全に無効化する。


『なっ……!? 馬鹿な、計算値を超えるエネルギーの奔流……!?』


コアが初めて狼狽の色を見せ、迎撃のエネルギー波を放とうとする。だが、遅い。

重力の壁をすり抜け、和泉の機体はすでにコアの眼前にまで肉薄していた。


「これで……終わりだァァァァッ!!」


死んでいった仲間たちの無念、今も外で戦い続ける戦友たちの願い、そして孤独だった王の過去の清算。そのすべてを乗せた渾身の紫の一閃が、巨大な結晶体の中枢を完全に捉えた。


光の刃が、絶対の硬度を誇る神の心臓を、音もなく真っ二つに両断する。


『ガ……、アアアァァァァァァッ!!』


空間全体を震わせるような、凄まじい断末魔の叫び。

両断されたコアから莫大なエネルギーが暴走し、激しいスパークが漆黒のドーム内を覆い尽くしていく。


だが、崩壊していく結晶体の中から、憎悪と嘲笑にまみれたノイズが和泉の脳内にこびりつくように響いた。


『……これで、終わったと思うなよ、人間……』

「負け犬の遠吠えか」


『ククク……我はこの地域の司令塔に過ぎない。この星の他の地域にも、我と同格の「王の残骸」を核としたものたちが降り立っている……』


和泉の目が鋭く細められる。


『奴らが……事態に気付き、まとめて牙を剥きにくるぞ。どれほど仲間を信じようと、お前一人の力で……そのすべてに勝てるわけがない……ッ! はは、はははははッ!』


絶望の予言を残し、コアは最期まで和泉を嘲笑しながら、完全に砕け散った。


その瞬間。

鼓動を打つように空間を満たしていた禍々しいエネルギーの供給が絶たれ、巨大浮遊構造物全体に走っていたトラフィックの光が、ドミノ倒しのように次々と消灯していく。

耳を劈くような警報音も、施設を稼働させていた重低音も、すべてが止まった。


圧倒的な、絶対の静寂。


構造物全体のシステムが沈黙し、地球の空を覆い尽くしていた敵の機能が、この区画において完全に停止したのだ。

和泉は『紫』の大剣を静かに下ろし、砕け散った残骸の破片が雪のように舞い散る暗闇の中で、深く、長く、息を吐き出した。

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