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王との対話、そして開戦

和泉が絶対的な信頼と殺意を乗せ、神の心臓たるコアへと正面から斬りかかろうとした刹那。


不意に、周囲の時間が凍りついたかのように遅延した。

けたたましく鳴り響いていた警報音も、眼前のコアが収束させていた致死のエネルギーの瞬きも、すべてが極彩色に引き伸ばされ、静止していく。


その絶対の静寂の中で、敵の無機質な声とは全く違う、ひどく古びた、だが圧倒的な威厳に満ちた声が和泉の脳内に響き渡った。


『――何も知らないくせに、よく語るやつだ』


それは、和泉が戦いの中で時折、脳裏に聞いていたあの声だった。機体の奥底で眠り続けていた動力源――かつて宇宙の彼方で国を統べ、そして追われた『紫の王』自身の声。


「……あんたが、時折聞こえていたあの声か。あんたが王様か」


和泉は驚くことなく、凍りついた時間の中で静かに心で応えた。


『そうだ。……お前の言う通り、我は逃げ回ったわけではない。正しさを貫き、最後まで付き従った者たちを導こうとした。だが、我は孤独だった。我の独善的な正しさは、結果として徒党を組んだ者たちに敗れ去ったのだ』


王の声には、深い悔恨の色が滲んでいた。そして、かつての絶対者としての威圧感を放ちながら、和泉へと言葉を続ける。


『地球の人間よ。我が残骸のせいで、お前たちの星を理不尽な戦火に巻き込んだことは詫びようもない。だからこそ……我が過去の亡霊どもは、我自身の手で清算する。体を渡せ。我が力で、奴らを滅ぼしてやろう』


王は、和泉の意識を沈め、自らが表に出て決着をつけることを提案した。

だが、和泉はその王の申し出を、鼻で笑って一蹴した。


「……断る」

『なに?』


「事の発端はあんたの過去の因縁のせいかもしれないがな、今この星で、泥水すすってこいつらと戦っているのは俺たちだ。俺の体は渡さねえ。あんたが、俺に力を貸せ。俺がやるんだ。あいつらのために、俺自身のけじめのためにな」


和泉の強烈なエゴと意志の強さに、王は一瞬言葉を失う。そして、ひどく重々しい声で警告を発した。


『……我の力を完全に受け入れれば、どうなるか分かっているのか。お前が指にはめているその指輪――それでなんとか我の力を留め、辛うじて人間の形を保っているに過ぎないのだぞ』


王の言う通りだった。和泉の指にはめられた制御装置リミッターとしての指輪が、強大すぎる『紫』の力から和泉の肉体を保護していたのだ。すでに髪や瞳の色は変質しているが、それはまだ表面的なものに過ぎない。


『その軛を外し、我の力を完全に受け取るということは、肉体の構造そのものが変質するということだ。……もはや、人の肉体を維持できる保証はないぞ』


「構わない。……そんなこと、最初から知っていた」


和泉の心に、微塵の迷いもなかった。

彼は静止した時間の中で、己の指輪を躊躇うことなく引き千切るように砕き割った。


「あんたが言わなくとも、俺はそうなったとしても前に突き進むことしか知らん。……それに、帰り道は仲間が作ってくれる。俺が『人』へと帰る道も、お前を信じた仲間たちの力を借りてきっとな」


和泉の言葉には、自分を待つ仲間たちへの、疑いようのない絶対的な信頼があった。王がかつて持つことのできなかった、「究極の絆」の形だった。


「まあ、直す必要もないがな」

和泉は、獰猛な笑みを浮かべて自らの機体――構成員たちの機体を思い描いた。

「今は自力で何とかできないから、俺たちはあんたたちのコアを使うしかない。だが、俺が圧倒的であれば、他はみな助けられる。俺はこれからまだ世界を救って……俺の仲間たちが乗っている機体のコア――最後まであんたを信じて月に墜落した『お前の忠臣たち』も、その呪縛から救わなきゃならんからな」


自分が圧倒的な力で全てを捻じ伏せ、仲間も、王の忠臣たちも全員救い出す。そう言い切る和泉。だが、その一方で、人間に戻れなくなるかもしれない己の肉体の明日は「仲間がなんとかしてくれる」と、ある意味で放り投げるような、投げやりなほどの絶対の信頼を仲間に置いている。


その途方もない矛盾と、見たこともない器の大きさを前にして、王の威厳に満ちていた顔が劇的に崩れた。


『――は、ははははっ!』


それは、かつて孤独な玉座にいた絶対者としての笑いではなかった。

和泉のあまりにも不遜で、あまりにも仲間を信じきった言葉が可笑しくてたまらないと言わんばかりに、王はまるで子供のようにはしゃぎ、無邪気に、愉快そうに声を上げて笑ったのだ。


『面白い! 実に面白いやつだ、お前は! 己が圧倒的であれば他をすべて救えると豪語しながら、己の戻る道はすべて配下に放り出すか! 我が一生をかけても見出せなかった答えを、そんな投げやりな信頼で体現するとはな!』


王の笑い声が、心地よい熱となって和泉の精神に融けていく。子供のように笑い転げた後、王の声はこれ以上ないほどの歓喜と全幅の信頼を帯びて響いた。


『よかろう、地球の人間よ! 我が力のすべてを、お前に託す。……魅せてみせよ、お前たちの不屈の証明を!』


「ああ。……全部、使わせてもらうぜッ!」


和泉が咆哮した瞬間、砕け散った指輪の破片が光の粒子となって消え、和泉の肉体に規格外の『紫』の力が完全に流れ込んだ。

人としての肉体の限界を超越し、完全に機体と同化した和泉の力が、絶対座標として覚醒する。


凍りついていた時間が、一気に動き出す。


敵のコアから、空間そのものを消滅させるほどの極太のエネルギー波が放たれる。

だが、和泉の機体からは、王の孤高の力と人類の不屈の意志が完全に融合した、すべてを凌駕する圧倒的な紫のオーラが吹き荒れた。


「消し飛べェェッ!!」


和泉が『紫』の大剣を振り抜く。

巨大な紫の光刃が、迫り来る致死のエネルギー波を真正面から真っ二つに引き裂き、そのまま空間ごと敵のコアへと殺到した。激しい衝撃波が漆黒のドームを揺るがし、凄まじい爆発の閃光が辺り一面を白く染め上げる。


人間としての肉体がどうなろうと、仲間を信じて前に突き進む地球の戦士と、その魂に惚れ込み、子供のように笑って力を託した異星の王。

二つの魂が完全に重なり合った紫の流星が、神の心臓へと肉薄する。


ここに、すべてを終わらせるための最終決戦が、ついに幕を開けた。

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