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不屈の証明

『――なぜ怒る必要がある?』


巨大な結晶体が、不快な明滅を繰り返しながら和泉の脳内へ直接語りかけてくる。

神の心臓たるコアは、眼前に立つ紫の機体を見下すように、底冷えする嘲笑の論理を紡ぎ出した。


『我々にとって、辺境の星で眠る王の残骸を塵にするなど、本来は取るに足らない極めて簡単な掃除作業で終わるはずだった。……だが、誤算が生じた。原住民に過ぎないお前が王のコアと共鳴し、あろうことかその規格外の力を使いこなし始めたからだ』


だからこそ、彼らは方針を変えたのだという。

王の力を振るう和泉というイレギュラーを完全に排除し、ついでに地球を自分たちの新たな星に作り変えるために、本気で殺しにきたのだと。


『そして今、お前はたった一人で我々の前に立っている。……王と同じだ』

コアの放つ光が、冷酷に揺らいだ。

『かつての暴君も、目的のために不要な仲間を切り捨てて生き延びた。お前も同じだろう。圧倒的な戦力差を前に、己の配下を壁として使い、時間稼ぎの肉盾として犠牲にして、ようやくこの玉座へと辿り着いた。目的のために他者を踏み台にするその姿、まさしく王の器に相応しい』


「……」


『怒る必要などどこにある。我々はお前の力を評価し、本気で対応してやったのだ。そしてお前もまた、同胞を犠牲にしてまでここまで来るという合理的な選択をした。我々は何ら違わない』


吐き気を催すようなコアの言葉。

だが、和泉は沈黙の中でただ静かに息を吐き出すと、操縦桿を握る手にゆっくりと力を込めた。


「……お前らみたいな腐った連中が、俺の機体のコア(王)に反逆した理由が、今ならよくわかるぜ」


和泉の声には、もはや怒りの熱すら通り越した、絶対零度の殺意が宿っていた。


「お前らは、何もわかっちゃいない。俺が仲間を『犠牲』にしただと? 舐めるな」


和泉の眼差しは、分厚い装甲と漆黒の空間を突き抜け、はるか後方で戦い続ける仲間たちの姿を幻視していた。いや、それは幻ではない。機体を通じて微かに繋がるデータリンクのノイズが、彼らの「生」の鼓動を確かに伝えてきている。


分断の壁の前で、圧倒的な群れを相手に一歩も引かず立ち塞がる、伊達たち二十三名。

自らを犠牲にしてでも未来を繋ぐために、覚醒した力で白銀の処刑人を抑え込む、岩本たち五名。

最後の扉の前で、満身創痍になりながらも背中を護り抜く、源田。

そして――この歪んだ空間の外で、絶望的な数と戦力差を前にしながらも、決して折れることなく人類の防衛線を死守し続けている、片倉たち百二十名の兵士たち。


誰一人として、死んでなどいない。

誰一人として、和泉が「見捨てた」わけではない。


「あいつらは誰一人、俺の盾になったわけじゃない。俺が必ずここをぶっ壊して帰ってくるって信じているから、自分からあそこに残ったんだ」


和泉の言葉に呼応するように、『紫』の機体が、コアの放つ無機質な光をかき消すほどの圧倒的なオーラを立ち昇らせた。機体の奥底で脈打つ『王』の意思が、和泉の言葉を肯定するかのように熱を帯びる。


「それに、こいつ(王)だって、ただお前らから逃げ回ったわけじゃねえ。自分の正しさを信じ、最後まで信じてついてきた仲間を導こうとして、力を使い果たして眠りについただけだ。……それを俺たち地球の人間が持ち帰ったことで、再び目を覚ました」


和泉は、『紫』の巨大な刃を静かに抜き放った。

白熱化する紫の刀身が、空間の暗闇を鮮烈に切り裂き、神の心臓へと真っ直ぐに突きつけられる。


「お前らは、王のことも、俺たちのことも、何一つわかっちゃいねえ。……俺の後ろには、最高に頭の悪い、最高に強い仲間たちがいる。だから俺は、お前らをぶっ壊して、必ずあいつらの元へ帰る」


一切の揺らぎもない和泉の絶対的な意志。

それが引き金となったかのように、空間全体が警報音で鳴り動いた。コアから直接、致死のエネルギー波が和泉の機体へ向けて放たれようと収束を始める。


「さあ、見せてやるよ。地球の人間(俺たち)の不屈の証明を」


和泉は操縦桿を強く握り締め、極限の信頼と殺意を乗せて、神の心臓へと正面から斬りかかった。

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