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月より目覚めし暴君、明かされる真実

背後で源田が振るう剛剣の駆動音と、群がる騎士たちの激突音が遠ざかる。

和泉がたった一人で踏み入れた最後の扉の先は、これまでの狂気的な戦場とは打って変わって、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。


果てしなく広がるような錯覚を覚える、漆黒のドーム状の空間。

その中央に、周囲の空間から莫大なエネルギーを吸い上げながら、脈打つように淡く発光する巨大な多面体の結晶体が浮遊していた。間違いなく、この巨大浮遊構造物のすべてを統括する司令塔であり、心臓部たる「コア」だった。


和泉が結晶体へと間合いを詰めようとした、その時だ。


『――よくぞここまで這い戻ってきたな。愚かなる暴君よ』


通信機を通してではなく、和泉の脳内へ直接響くような、ひどく無機質で冷徹な声。

それは和泉という一人の人間に対して向けられたものではなかった。コアは、和泉の機体に搭載されている規格外の動力源――すなわち『紫』の王の存在を明確に認識し、語りかけていたのだ。


和泉の機体が、共鳴するように微かに明滅を始める。

コアは、感情の欠落した声で淡々と「真実」を紡ぎ始めた。


『かつて全星系を統べ、絶対的な繁栄を築き上げた誇り高き王。それが、今お前が乗っている機体のコアの正体だ』


コアから放たれるホログラムのような光が、虚空に過去の映像を映し出す。

それは、地球の文明など遠く及ばないほどに高度に発達した異星の風景だった。

王は、民のため、そして国の永続的な繁栄のために、すべての感情を殺して「最も効率的で確実な統治」を行った。その過程で、国益に反する者、足手まといになる仲間たちを冷酷に切り捨てていった。すべては国を護るための、王としての孤独な決断だった。


『だが、その冷徹な正しさは理解されなかった。切り捨てられた過去の仲間たちは王を恨み、徒党を組んで政争を引き起こした。彼らは民衆に向けて幾重もの“嘘”を並べ立て、王を「私利私欲のために仲間を殺す怪物」へと仕立て上げ、反逆の狼煙を上げたのだ』


映像の中で、きらびやかな玉座から引きずり降ろされる王の姿が映る。

それでも王は、己の決断が間違っていたとは決して認めなかった。

自らの正しさを信じ、最後まで彼に付き従ったわずかな忠臣たちと共に一隻の船に乗り込み、国を追われた。そして、果てのない宇宙を彷徨った末に辿り着いたのが、「地球の月」だったのだ。


『彼らは月へ墜落し、そのまま静かに朽ちることを選んだ。……そのまま眠っていればよかったものを』


コアの発する光が、不快げに揺らぐ。


『数年前、お前たち地球の人間が月へ到達し、王の残骸に触れ、あろうことか地球へと持ち帰った。その時生じた微かな波動によって、我々は王の居場所を感知したのだ。現在の支配者たち――かつて嘘を並べて王を追放した者たちは、ひどく怯えた。もし王が生き延びており、過去の自分たちの嘘が暴かれれば、政権がひっくり返るからだ』


だからこそ、この巨大な軍勢が地球へ差し向けられた。

地球を侵略するためではない。かつての王を、その痕跡すら残らないほどに完全に消し去るためだけに。


「……それが、俺たちから仲間たちを奪い、何千万もの人間を殺した理由か?」

和泉の声は、限界まで押し殺された低さだった。


たったそれだけのこと。

遠い宇宙の彼方で行われた、下劣な政治劇。権力者たちが自分たちの保身のために吐いた「過去の嘘」を隠蔽するためだけに、人類は滅亡の淵へと追いやられたというのか。


『そうだ。王の残骸と、それに触れた原住民を塵にするだけの、簡単な掃除のはずだった』

コアの声に、初めて歪な「嘲笑」のような色が混じる。

『だが、我々にとっても嬉しい誤算だった。この辺境の星は、思いのほか美しく、環境が良い。だから我々は方針を変えた。王を殺すついでに、この星の原住民を駆逐し、我々のための新しい星として“作り変える”ことにな』


あまりにも身勝手で、傲慢な理由。

虫けらをすり潰すような感覚で地球の環境を書き換え、人類を根絶やしにするという宣言。


「……そうかよ」


和泉は、操縦桿を握る手にギリッと力を込めた。

『紫』の機体が、まるで中の「王」自身の静かなる激怒を代弁するかのように、かつてないほどの熱量を帯びていく。


「他人の星を勝手に自分の都合でぶっ壊して、嘘で塗り固めた玉座を守る。……そんなくだらねえ理由のために、俺の仲間たちは命を懸けてここまで来たってのか」


和泉の脳裏に、分断の壁の前で笑って残った伊達や酒井たちの姿がよぎる。時間を稼ぐために自らを犠牲にして門番を食い止める五人の仲間たち、そして、今この瞬間も背後の扉で命を削って自分を護る源田の背中が。


「……ふざけんな」


和泉の眼差しから、一切の迷いが消え去った。

冷たい殺意と、仲間たちへの絶対的な信頼が結実した純粋な怒り。彼が武装のマウントへ手を掛けようとした、その時だった。


『――なぜ怒る必要がある?』


巨大な結晶体が、和泉の殺意など意に介さないかのように、不快な明滅を繰り返す。

和泉の脳内に、底冷えするような嘲笑の声が響き渡った。


『その力を振るうお前には、我々の理屈がよく理解できるはずだ。……違うか?』


神の心臓たるコアは、和泉へ向けてゆっくりと次の「絶望の論理」を紡ぎ出し始めた。

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