最後の扉、剛剣の咆哮
五人の仲間が命と時間を懸けてこじ開けた一瞬の隙。そこを突いて、和泉の『紫』の機体と源田の重装甲機体は、白銀の処刑人を置き去りにして回廊のさらなる深奥へと滑り込んだ。
だが、たどり着いたそこは、未だ真の中枢ではなかった。
「……冗談だろ、おい」
先行する源田が、忌々しげに低く唸る。
巨大な回廊を埋め尽くしていたのは、無限に湧き出ていると錯覚するほどの、見覚えのある機体群だった。
それは、彼らがこの空の戦場の入り口で最初に激突した「騎士」たちの群れ。それが幾重にも整然とした隊列を組み、一つの巨大な軍勢となって二機へ向かって行軍してくるのだ。
「源田、背中を合わせろ! 止まれば一瞬で飲み込まれるぞ!」
「分かってますよ、大隊長!」
和泉の紫の刃と、源田の無骨な大剣が同時に煌めく。
二機は互いの背中を完全に預け合いながら、騎士たちの軍勢の中へと突撃した。
タイムリミットは、残り4時間。外の世界の運命を背負った二機に、一瞬の躊躇すら許されない。
斬っても、砕いても、次から次へと隊列を埋めるように新たな敵が湧いてくる。純粋な暴力と執念のぶつかり合い。和泉は極限の集中力で紫の軌跡を描いて敵の急所を的確に貫き、源田はその圧倒的な質量とパワーで群れを強引に薙ぎ払っていく。
終わりの見えない激闘の中。和泉は背中合わせで斬り続ける死闘の最中、空間の最奥に「ほんの少しの違和感」を覚えた。
押し寄せる無機質な銀色の波の向こう側に、ポツンと浮かび上がる異質な色彩。
それは、この軍事施設のような空間には全く似つかわしくないほどに、装飾がきらびやかな巨大な扉だった。間違いない。あれが、すべてを統括する王の間へと続く最後の隔壁だ。
「大隊長、あそこだ! あの奥が間違いなくこの船の心臓だ!」
源田が叫び、自身の機体の出力を限界まで引き上げる。彼の中から溢れ出した強烈な力が大剣に宿り、剛剣の一振りで目の前に群がる騎士たちの隊列を数十機まとめて真っ二つに切り裂いた。
源田の力によって強引に切り拓かれた血路。
だが、和泉が扉ごと空間を切り裂こうと『紫』の力を引き出した、その時だった。
「大隊長。その力は、奥の『神様』のために取っておいてください」
源田の機体が、和泉の前にスッと立ち塞がった。
「源田……?」
「ここまでアンタの背中を預かって、一緒にやってきたんだ。後ろで張ってるあいつらの分まで、最後の扉くらい、俺に開けさせてくださいよ」
源田はそう言うと、機体の全エネルギーを、駆動系と右腕に握られた大剣へ向けて強制的に一極集中させていく。関節部から異常な排熱の蒸気が噴き出し、装甲が内側からの圧力でひしひしと悲鳴を上げた。
「大隊長の道を……開けろォォォォッ!!」
源田の魂の咆哮と共に、極限まで力を溜め込んだ一撃が、きらびやかな最後の隔壁へと振り下ろされた。
空間そのものが砕け散るような、凄まじい衝撃音が回廊を揺らす。
絶対の硬度と豪奢な装飾を誇っていた巨大な扉の中心に深い亀裂が走り、次の瞬間、分厚い金属の塊は跡形もなく粉砕され、四方八方へと吹き飛んだ。
扉は完全に破壊された。
源田の機体は全エネルギーを放出し、駆動系は赤熱して焼き切れる寸前だった。力を突き果たし、もはや立っていることすら不思議な状態だ。
だが、彼はその場に崩れ落ちることはなかった。
『和泉。……行ってくれ』
息も絶え絶えな通信の声。源田はいつもの「大隊長」ではなく、共に死線を越えてきた戦友の名を呼んだ。
軋む機体を無理やり反転させると、後方からは、開かれた血路を埋めるように未だ無限の騎士たちが津波のように押し寄せてきていた。
限界を迎え、まともに動かないはずの機体。それでも源田はなおも大剣を振りかぶり、背後から迫る騎士どもを次々と気迫だけで叩き斬っていく。
『ここに来たあいつらと、死んでいった彼らのために……ここは俺が塞ぐ。全部終わらせてきてくれ!』
和泉は、限界を超えてなお自分の背中を護るために剣を振るい続ける副官の姿を、真っ直ぐに見つめた。
「ああ。任せろ」
和泉は短く応えると、たった一人で、ついに開かれた最後の扉の奥――神の心臓部へと足を踏み入れた。




