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対話

「……こっちだ、鉄屑ども。お前たちの敵は俺だ」


和泉機が放つ圧倒的な存在感に引かれ、十七体の「神の甲冑」が一切の感情を持たずに殺到してくる。

空間そのものを押し潰すほどの濃密な殺意と、息が詰まるような絶対的なプレッシャー。それが四方八方から同時に襲い掛かってくる絶望的な光景を前にして、和泉の思考は極限まで加速し、静まり返っていた。


『――愚かな。たかだか三分、されど三分。己の命を擦り減らしてまで、弱き者たちを庇うか』


極度に研ぎ澄まされたコンマ一秒の世界。

和泉の脳内に、右手の指輪を通して直接『声』が響いた。それは、かつてこの星を蹂躙し、今や和泉の力の一部となっている『王』の思念だった。


「黙って力だけ貸してろ。……俺は、あいつらを信じてる」


和泉は内なる王の問いに短く返し、操縦桿を限界まで倒し込んだ。


正面から振り下ろされる、機体を両断せんとする巨大な単分子ブレード。和泉はそれを後退して躱すのではなく、あえて敵の懐へと『前進』して紙一重で回避する。

空を斬った敵の刃が純白の床に激突するその瞬間、和泉機はすでに反射の切り返しを終えていた。敵の振り抜いた腕を足場にするように跳躍し、無防備になった首の関節の隙間へ、紫の刃を正確に突き刺す。


強固な装甲の奥で、駆動系がショートし爆発する重低音。


和泉は、ただ闇雲に十七体を相手にしているわけではない。

敵の質量と数を利用し、同士討ちを誘うような射線へ意図的に移動する。一体を盾にし、死角を作り、常に敵の攻撃ベクトルを一本に絞り込む。

集団戦でありながら、和泉は驚異的な位置取りと空間把握能力によって、瞬間瞬間に「一対一」の状況を強制的に作り出し、確実に一体ずつを削り取っていた。


『我にすべてを委ねよ。王たる我の力を完全に解放すれば、背後の有象無象ごと、この空間のすべてを一瞬で塵に変えてやろうものを』


王の傲慢な誘惑が、再び脳を揺らす。

右腕から全身の血管へと、機体を――いや、和泉自身の肉体を内側から焼き尽くすような強大な力が流れ込んでくる。


二体目、三体目。

背後から迫る斬撃を、眼前の敵の装甲を蹴り飛ばした反動で躱し、すれ違いざまに紫の一閃で胴体を両断する。


「……馬鹿言ってんじゃねえよ」

和泉は荒い息を吐きながら、不敵な笑みを浮かべた。


「お前はすべてを一人で抱え込んだ孤独な『王』だったかもしれないが、あいつらは絶対に俺に追いついてくるぞ」


和泉機が舞うたびに、紫の光跡が真っ白な空間に美しい幾重もの火線を刻んでいく。

一撃でも掠れば即死する死の舞踏。だが、和泉の心には微塵の不安もなかった。


「仲間の思いを、死んでいった奴らの力を自分の力に変えて……未来を自らの手で掴み取るために、俺の横に並び立つんだ」


その和泉の言葉を証明するかのように。

戦場の後方から、戦術レーダーには映らないはずの強烈な『気配』が和泉の肌を叩いた。


『――ほう……』

王の思念が、微かな感嘆を漏らす。


和泉は振り返らずとも理解していた。

かつて仲間を失った悲劇を乗り越え、誰の背中も見送らないと誓った男、佐々木。彼が失った仲間の思いを力に変え、絶対的な守護を具現化した『蒼』の光をその瞳に宿したことを。そして、その無敵の盾の内側から、源田たちが怒涛の反撃を開始したことを。


「な? 言ったろ。あいつらは、最高に強いんだ」


四体目、五体目。

和泉は仲間の覚醒を背中で感じながら、さらに深く敵陣へと踏み込んでいく。もはや王の力に振り回されることはない。和泉は『王の紫』を完全に自分の牙として統制し、神の甲冑たちを残酷なまでに解体し続けた。


そして。


「……全機沈黙。終わったぞ」

通信帯に、片倉の荒い息交じりの報告が響き渡った。


「……二分半か。三十秒オーバーだ」

源田の不敵な声がそれに続く。


和泉機が、眼前に迫っていた敵の腕を切り飛ばし、そのまま胸部装甲にブレードを深々と突き立てて沈黙させる。紫の光を帯びていた機体が、静かにスラスターの火を弱めた。


十七体いた「神の甲冑」は、すでに数体を残すのみとなり、周囲には無惨な鉄屑の山が築かれていた。


「……チッ」

和泉はコックピットの中で汗を拭いながら、通信帯へ向けて息を吐いた。


「遅えぞ、お前ら。……待ちくたびれたぜ」


傷だらけの純白の空間で、最強の大隊長と、彼が絶対の信頼を寄せる牙たちが、再び歩調を合わせた。

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