覚悟
和泉機が放つ紫の光跡が、真っ白な空間に幾重もの火線を刻む。
十七体の「神の甲冑」を一点に引きつけ、その猛攻を一身に受ける和泉は、ただ凌いでいるわけではなかった。
降り注ぐ巨大な刃の雨。その一撃一撃に対し、和泉は回避と同時に必ず反射で切り返していく。多勢に無勢という絶望的な状況。しかし和泉は、極限まで加速させた思考と機動により、その瞬間瞬間において「一対一」の状況を強制的に作り出していた。群がる敵の隙間を縫い、孤立させた一体を確実に削り取っては、次なる標的へと刃を滑らせる。
敵を屠りながら空を駆けるその姿は、凄絶なまでの輝きを放っていた。
その背中を追い、源田が全軍へ向けて吼える。
「総員! 二分でここを片付けるぞ!」
残された脅威は、超高速で空間を滑る五十体の新型機。
だが、その速度特化の波状攻撃は依然として鋭く、最後尾で動けない味方を護っていた小島たちの防衛フィールドを食い破った。
バリアが局所的に崩壊し、その隙間を縫って三機の新型が内側へと滑り込む。無防備に横たわる行動不能な味方機へ、無慈悲な刃が振り上げられた。
その時、一機の機体が思考より先に爆発的な加速を見せた。佐々木だった。
脳裏にこびりついて離れない、かつて自分を庇い炎の中に散っていった山本の背中。あの日、自分の無力が招いた最悪の結末。
フラッシュバックする過去の絶望を、今の仲間を救うという強靭な意志が塗り潰していく。もう、誰の背中も見送らない。
佐々木のコックピットの中で、彼の瞳が深く澄み切った『蒼』の光を放った。
自らの内側に溢れ出す未知のエネルギー。彼はそれを「不思議な力」として戸惑うのではなく、今この瞬間、仲間を護るために最適化された「盾」であることを直感的に、そして完璧に理解していた。
佐々木が味方の盾となり、両腕を交差させて構える。彼を中心に展開された蒼い生体エネルギーは、物理的な装甲を超越した絶対の守護力場として空間に定着した。
新型の単分子ブレードが佐々木の盾に激突し、凄まじい火花が散る。金属同士が激しく削り合い、空間を震わせる轟音が響き渡るが、蒼い力場は微動だにしない。
佐々木はその力を完全に制御下に置き、盾を弾ませるようにエネルギーを解放した。圧倒的な反発力が三体の新型機を大きく弾き飛ばす。そこへ即座に他の中隊が援護に飛び込み、体勢を崩した三機を瞬時に粉砕した。
「前衛、このまま一気に削るぞ!」
佐々木の覚醒を皮切りに、生き残ったパイロットたちの意志が一つに溶け合う。
第一波。源田、石井、伊達、菅野、杉田ら和泉中隊の面々は、突出してきた六機を巧みな回避行動で誘い出し、流れるような連携でいなして撃破。同時に、片倉中隊と酒井中隊が網にかけた十五機を、金子中隊の精密な弾幕の中に引きずり込み、一気に粉砕した。
たった一度の激突で、二十四機の新型が消滅。ここまでの経過時間は一分半。
損害を瞬時に理解した残存する二十六機の新型は、即座に射程外まで後退し、近寄ってこなくなった。
「奴ら、待ちに入りました!」
「なら、こっちから仕掛けるまでだ! 全機、包囲を縮めろ!」
小島が即座に戦術を切り替える。待つ必要はない。数と火力の優位は、今や人類の側にあった。
全機が一斉に前進を開始する。和泉中隊が壁となって退路を塞ぎ、片倉と酒井の近接部隊が両翼から追い込み、金子中隊が逃げ道を塞ぐように精密な射撃を放つ。
速度を最大の武器としていた新型機たちは、逆にその逃げ場を失い、人類の圧倒的な連携の前に次々と追い詰められ、無惨に解体されていった。
「これで最後だッ!!」
逃げ場を失った最後の一機が真っ二つに裂かれ、空間に静寂が戻る。
「……全機沈黙。終わったぞ」
片倉の報告に、源田は時計を一瞥し、短く鼻を鳴らした。
「……二分半か。三十秒オーバーだ」
だが、その声に迷いはない。誰も死なせず、厄介な新型五十機を完全に殲滅してみせたのだ。
彼らが戦場を制圧し、空間の奥へと視線を向ける。
そこには、十七体いた「神の甲冑」をすでに数体まで減らし、残る敵を確実に仕留めながら、未だ紫の光跡を残して凄絶に舞い続ける和泉機の姿があった。




