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防衛隊

仲間を護るために限界を突破した酒井の一撃。

その獰猛な戦果に呼応するように、最前線で壁となっていた和泉中隊の古参兵たちもまた、熟練の極致とも言える立ち回りで確実な反撃に転じていた。


「……フゥッ」


短く息を吐き出す和泉。指輪から供給される王の力に身体と神経を完全に馴染ませ、先ほどのダメージから調子を取り戻してきていた和泉は、もはや一切の遅れを見せていなかった。

アグレッサーが無音の踏み込みから紫の刃を一閃する。敵の洗練された機動のさらにその先を読み切った刃は、分厚い純白の装甲の僅かな隙間を正確に抉り、和泉は単独で三体目となる「神の甲冑」の腹部へと深々とブレードを突き刺した。


「ハッ、大隊長に遅れを取るなよ!」


源田が巨大なブレードと圧倒的な膂力で強引に敵の姿勢を崩し、渾身の一撃で二体目を叩き斬る。

無言の伊達が鉄壁の盾となって敵の攻撃を受け止め、その死角から佐々木と石井が流れるような連撃を叩き込んで、それぞれ一体を沈める。

さらに、和泉中隊の第三小隊長である菅野は部下を含めた三名がかりで敵の脚部関節を破壊して一体を沈め、第四小隊長の杉田雄二も同じく小隊の三名で連携してもう一体を完璧に解体して見せた。


和泉が三体、源田が二体、伊達、佐々木、石井が各一体。第三小隊と第四小隊でそれぞれ一体。その他の和泉中隊の面々の活躍も含め、彼らはこのわずかな時間で約十二機の重装甲機を単なる鉄屑に変えていた。

そして、酒井が限界を突破して両断した一機を合わせれば、計十三機。

絶対に砕けないと思われていた三十体の純白の守護者のうち、実に半数近くをすでに撃破していたのだ。


「……行ける! こいつらは無敵じゃない!」

「このまま一気に押し潰すぞ!」


次々と敵を撃破していくという事実は、極限状態にあった百五十五機のパイロットたちに確かな勝機と爆発的な士気をもたらした。

小島の支援機が弾き出す予測データと、中隊長たちの緻密な指揮。そして古参兵たちの圧倒的な突破力。この連携なら押し切れる――誰もが勝利の糸口を掴みかけた、まさにその時だった。


『――待て、上方および左右の空間から新たな熱源反応! 数、およそ五十!』


バリアの内側でコンソールを叩いていた小島が、悲鳴のような警告を発した。


「増援だと……!?」

和泉がメインカメラを上方へ向ける。


真っ白で天井の高さすらわからない空間の上空から、新たなシルエットが次々と降り立ってきた。

だが、その姿は先ほどまで和泉たちが死闘を演じていた「神の甲冑」とは明らかに異なっていた。


装甲は極端に薄く、四肢は異様なほどに細く長い。重厚さの欠片もないそのシルエットは、まるで防御力と火器を完全に削ぎ落とし、ただ純粋な「速度」と「殺傷力」だけを追求した凶器そのものだった。両腕には、機体の背丈ほどもある長大で鋭利な単分子ブレードが備わっている。


「……なんだあの細っこい機体は。さっきのガチガチの連中に比べりゃ、装甲なんて無いに等しいぞ」

源田が警戒の声を上げる。


「撃て! 近づけさせるな!」

金子の中隊が、落下してくる新型機へ向けて一斉に大口径ライフルを掃射した。

さっきの重装甲機であれば、躱されようとも数発は掠り、あるいは弾いて足止めできたはずの弾幕。


だが。


『――なッ!?』

金子が驚愕に息を呑む。

新型機たちは、空中で人間には到底不可能な異常な軌道変化を見せた。スラスターの噴射すら見えない、まるで空間そのものを滑るような機動。凄まじい弾幕の隙間を縫うようにして、一発の被弾もせずに一瞬で陣形の懐へと迫ったのだ。


「速すぎるッ――!」


防御を固めていた片倉中隊の一機がカバーに入ろうとした瞬間、新型機はその長大なブレードを振るうと、反撃すら待たずに爆発的な速度で後方へと跳躍した。


金属が薄く削がれる鋭い音と共に、予期せぬ衝撃と装甲を裂かれる不快な振動を受けたパイロットの短い苦悶の呻きが通信帯に漏れる。


カバーに入った味方機の胸部装甲が浅く切り裂かれ、火花が散る。致命傷ではない。だが、新型機の狙いは「一対一で仕留めること」ではなかった。


『クソッ、ちょこまかと! 当たらねえ!』

『追うな! 陣形を崩されるぞ!』


新型の防衛隊は、完全に「近接特化」でありながら「一撃離脱」の戦法に振っていた。

金子たちが狙いを定めようとすれば、視界の死角へと瞬時に回り込んで牽制の斬撃を放つ。片倉たちがワイヤーで捕らえようとすれば、すでにその場から消え去っている。重く泥臭い連携で立ち向かおうとする人類にとって、機動力で翻弄してくるこの戦法は、最悪の相性だった。


そして、この新型機が戦場に投入された真の意味を、和泉たちはすぐに最悪の形で理解することになる。


「……ッ、いかん! 各機、持ち場を離れるな! 奴らの狙いは――」

和泉の警告は、一歩遅かった。


新型機に翻弄され、迎撃や回避のために僅かに陣形が広がったその一瞬の「隙」。

そこに、先ほどまで沈黙していた残り十七体の「神の甲冑」たちが、一切の感情を持たない冷徹な歩みで雪崩れ込んできたのだ。


「しまッ――!」

新型の撹乱に対処しようと背を向けていた味方機の背後に、重装甲の守護者が無音で迫り、その圧倒的な質量と膂力で容赦なくブレードを叩き込む。


和泉たちが「神の甲冑」を倒すためには、小島の予測と、複数の部隊による緻密な連携が不可欠だった。

だが、その連携を組むための「時間」と「空間」を、超高速で駆け回る新型機が完全に食い破っていく。


超高速の「刃」が死角から陣形を切り刻み、重装甲の「壁」が孤立した機体を押し潰す。

互いの弱点を完璧に補完し合う、あまりにも理不尽な防衛システム。これこそが、神の胎内を守る真の絶望だった。


「隊長! 右からまた来ますッ!」

「バリアの出力が追いつかない! 小島少佐、後衛が保ちません!」


通信帯に、先ほどまでの希望に満ちた声はもうない。

飛び交うのは、極限の焦燥と、悲鳴に近い報告ばかり。


「クソッ、陣形を立て直せ! バラバラになるなッ!」

源田が怒号を飛ばしながら盾代わりに敵の斬撃を受け止めるが、超高速の波状攻撃に、古参兵たちでさえ徐々に分断され始める。


真っ白で無菌室のようだった純白の空間は、瞬く間に人類の牙が流す黒いオイルと、散乱する装甲の破片で汚れていく。

統制された完璧な防衛陣は完全に崩壊し、戦場は誰がどこで誰と戦っているのかすらわからない、凄惨な「乱戦」へと引きずり込まれていった。

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