覚悟
「和泉! 返事をしろ、和泉ッ!!」
通信帯から聞こえる源田の悲鳴のような叫びも、今の和泉には遠い水底の音のようにしか聞こえない。
和泉の意識が一時的に途切れたその瞬間、全部隊を繋いでいた「重力制御」の網が揺らいだ。
それを、空から見下ろす母艦の防空システムが見逃すはずもなかった。
『敵の攻撃密度、さらに上昇! 来るぞ、回避機動ッ!!』
金子優里の鋭い号令が響く。
一万メートル近い上空から、和泉を、そして動けない源田とアグレッサーを狙い、太い光束が次々と降り注ぐ。
「……させない。……全機、前へッ!!」
金子の決断は早かった。
彼女率いる遠距離部隊が、本来の「後方支援」という役割を捨て、和泉機を囲むようにして前方へと躍り出た。全エネルギーを前面装甲と緊急用フィールドに回し、自らが盾となる大出力の防壁を形成する。
ドガガガガガッ!!
激しい火花が金子中隊の装甲を削り、機体が悲鳴を上げる。
「優里! 無茶だ、その装甲じゃ耐えきれないぞ!」
小島が叫ぶが、金子は歯を食いしばり、必死に機体を支え続けた。
「大隊長が戻るまで……一秒でも長く、私たちが支えます!」
だが、敵の弾幕は金子中隊の防壁すらも食い破り、その隙間から鋭いレーザーが和泉機へと迫る。
「らあああッ!! どけぇッ!!」
そこに割り込んだのは、酒井だった。
近接部隊である彼らには、光束を打ち消す武装も強力な盾もない。酒井たちが取った行動は、あまりにも泥臭く、そして狂気じみたものだった。
彼らは機体に予備として積んでいた分厚い装甲板を、次々と手で引き剥がし、アグレッサーの射線上へと投げつけ始めたのだ。
ガキィィンッ! ズドォォォンッ!!
投げつけられた装甲板が空中でレーザーを反射し、爆散する。
それでも防げない一撃に対しては、酒井たちは自らの機体の「肩」や「腕」を強引に差し出し、肉壁となって弾丸を、熱線を食い止めた。
「俺たちが喧嘩屋だってことを忘れたかよ! 命を張る(ベットする)場所は、ここしかねえんだよッ!!」
酒井の咆哮と共に、部隊全員がアグレッサーを死守すべく、文字通りの「肉壁」と化していく。
装甲が溶け、腕が千切れ、火花が散る。それでも誰も退かない。
その、仲間たちの絶叫と鉄が焼ける匂いの中で。
和泉の瞳に、再び紫の輝きが宿り始めた。




