見捨てない魂
ヒュォォォォォォンッ!!
風を切り裂く轟音と共に、片倉の機体が猛スピードで降下していく。
眼下では、手足を失った部下の機体が、錐揉み回転しながら黒い荒野へと落下していた。
『高度六千! 落下速度、毎秒二百メートルを超えた!』
小島の切羽詰まった声が、無機質な数値だけを通信帯に叩きつける。
片倉は顔を歪め、歯を食いしばりながら、操縦桿をへし折らんばかりに握り込む。スラスターの推進剤を限界まで吹かし、機体の各部装甲が空気抵抗で悲鳴を上げる。警告音がけたたましく鳴り響くが、片倉は一切減速しない。
(間に合え、間に合え……ッ!)
『高度五千! 落下速度二百五十! 四千五百!』
「隊長としての意地をなめるなよ……! ここだッ!」
高度四千メートル。
片倉の機体が落下速度に完全に追いつき、大破した機体の背部に空中で強引にしがみついた。そのまま自機のスラスターを最大出力で逆噴射し、凄まじいGに耐えながら、二機分の重量の落下スピードを力ずくで殺していく。
ゴァァァァァァンッ!!
空中で強烈なブレーキがかかり、二つの機体は辛うじてその姿勢を安定させ、宙に留まった。
「ハァッ……ハァッ……捕まえたぞ、バカ野郎」
片倉が全身から汗を吹き出しながら呟く。だが、安堵する暇はなかった。
『片倉! キャッチしたのはいいが、パイロットのバイタルが急速に低下している! 先ほどの衝撃で内臓をやられているぞ! このままじゃ死ぬ!』
小島のデータリンク越しに、部下の弱々しい脈拍が伝わってくる。
「……くそっ! なら、やることは一つだ!」
片倉は自機の装甲パネルを操作し、大破した機体の胸部――生き残ったコアへと、自身の機体を物理的に直結させた。
「頼む、星……! 大隊長たちがやってたみたいに、こいつを助けてやってくれ! 俺の機体のエネルギーは全部くれてやる! だからどうか、こいつの生体組織を修復してくれ……!」
それは見よう見まねの技術であり、一歩間違えればエネルギーの暴走で二人とも炭化する極限の賭けだった。だが片倉に迷いはなかった。
「大隊長が命を削ってんのに、俺の部隊から死者なんか出せるかよ……! 頼む、応えてくれッ!」
祈るような片倉の叫びに呼応するように、片倉の機体から眩いほどのエネルギーが大破した機体へと流れ込み、温かな光が重傷を負ったパイロットの身体を包み込んでいく。バイタルが僅かに安定を取り戻し始めた。
だが、片倉の機体はエネルギーのほとんどを修復と滞空に回してしまい、遥か上空の本隊に自力で合流する推力はもう残されていなかった。
一方、彼らが留まる高度四千メートルの遥か上空。
残る百五十三機の部隊は、いまだに母艦から降り注ぐ激しい対空砲火の嵐に晒され続けていた。
和泉のバリアが途切れた今、金子中隊の牽制射撃と、酒井中隊をはじめとする各機の限界の回避機動だけで、絶え間ない光の雨を必死に凌いでいる状態だ。次々と装甲が焦げ、警告音が鳴り響く極限の戦場。
その時である。
『……小島』
爆発音と怒号が飛び交う通信帯に、掠れた、しかし絶対的な意志を宿した声が割り込んだ。
源田に抱えられ、極限の負荷でほとんど死に体となっている和泉だった。鼻からも口からも血を流し、意識すら混濁しているはずの彼が、メインカメラ越しに遥か下層を見下ろしている。
『あいつらの、座標をよこせ』
『和泉!? お前、これ以上力を使えば本当に命が――! それに本隊だって敵の弾幕で限界だぞ!』
『よこせ。……俺が、引き上げる』
理屈ではない。ただ純粋な、隊長としての執念だった。
和泉の言葉と共に、沈黙していたアグレッサーの胸部で、王のコアが再び鼓動を打ち、紫の閃光を放ち始めた。




