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神算鬼謀の光

『発射まで残り三十秒!……まともに食らえば、全機まとめて蒸発するぞ!』


小島の悲痛な報告は、極限状態で一万メートルの空を目指す百五十五名のパイロットたちに、冷水を浴びせるような絶望をもたらした。

逃げ場はない。照射されれば、和泉の重力制御圏ごと消し炭にされる。


だが、後方支援機の中でコンソールに向かう小島の瞳には、微塵の諦めもなかった。極限の緊張が、彼の脳髄をかつてないほどにクリアに研ぎ澄ませている。


「……三十秒あるなら、俺の計算アタマが間に合う」


小島の指が、コンソールの鍵盤を弾くように荒れ狂う。


『全機、操縦系統のナビゲーションを俺のシステムに強制リンクさせろ! 今から十秒後、奴らの砲線と爆風の広がり、そのすべてを三次元で予測した「絶対回避ルート」を叩き込む!』


小島の声が、通信帯に鋭く響く。


『残る二十秒で、全機が指定された軌跡に沿って移動し、回避行動を行え! 数ミリの誤差も許されないぞ!』


十秒のカウントダウンが始まった。

敵の大型砲塔で渦巻くドス黒い紫のエネルギーが、空間を軋ませながら臨界点へと達していく。


「3、2、1……今だッ!!」


瞬間、百五十五機のメインモニターに、幾重にも交差する光のラインが浮かび上がった。戦場という盤面を完全に支配し、神の視点から味方を導く、圧倒的な戦術の光。


『俺の引いた線をなぞれ! 誰一人、死線には触れさせない!』


小島の神算鬼謀たる「神のような眼」が、全軍の活路を鮮烈に見開いた。

その光の道標に従い、全軍が一斉にスラスターを吹かし、激しい機動を開始する。


だが、ただ一機。

全機の重力制御と小島からのデータ直結に全出力を回している和泉のアグレッサーだけは、その場から一歩も動くことができない。


「大隊長! 失礼しますッ!!」


通信帯に響く声と共に、白銀の髪を揺らす源田の機体が、アグレッサーの横に滑り込んだ。

源田は迷うことなく、自機の両腕でアグレッサーの装甲をガッチリと掴み込んだ。


『源田……!』

「あんたは俺たちを飛ばすことだけに集中してくれ! あんたの体は、俺が運ぶ!」


源田の機体が、アグレッサーという巨大な質量を抱えたまま、エンジンのリミッターを解除する。装甲が悲鳴を上げ、スラスターから限界を超えた炎が噴き出した。


王の重力制御、小島の神算鬼謀、そして右腕である源田の物理的な牽引。

残り二十秒。

百五十五の鋼鉄の群れは、まるで巨人が振り下ろす剣の刃先をすれすれで躱す無数の小鳥たちのように、極限の回避機動ダンスを舞い始めた。


そして。


『――来るぞッ!!』


音も光も飲み込むほどの極大エネルギーが、母艦の大型砲塔から一気に解き放たれた。

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