ゼログラビティ
「……ッ、ぐ、あああああッ!!」
リンクを開放した瞬間、和泉の視界は真っ白に染まり、脳を直接焼かれるような激痛が走った。
それは精神的な負荷だけではない。百五十五機という膨大な質量の「重力」が、和泉という一個の肉体、その細胞一つひとつにまで物理的な楔となって打ち込まれたのだ。
鼻腔から熱い液体が滴り、全身の毛細血管が悲鳴を上げる。
だが、その苦悶と引き換えに、アグレッサーから放たれた紫の波動が荒野を飲み込み、絶対的な「領域」を構築した。
ゴォォォォォォォ……ッ!
地響きとは違う、空間そのものが震える音が響く。
次の瞬間、百五十五機の鋼鉄の巨躯が、物理法則をあざ笑うように音もなく地表から数センチ浮かび上がった。
『な……っ、本当にやりやがった……!』
小島がモニター越しに絶句する。
その時、アグレッサーの背後から、陽炎のような紫の光が噴き出した。それは推進器の炎ではない。幾重にも重なり、天を突くほどに巨大な――「羽」のような光の奔流。
和泉の進化が、機体の枠を超えて視覚化され始めていた。
「ハァッ……ハァッ……小島」
和泉は溢れ出す鮮血を拭いもせず、歯を食いしばって通信を繋いだ。
一万メートルの空から、神の雷(対空砲火)が今まさに放たれようとしている。
和泉は自身の感覚が極限まで研ぎ澄まされ、母艦から放たれる攻撃のエネルギーの「揺らぎ」を予見できることに気づいていた。全機と繋がったことで、彼は戦場そのものを自身の巨大な触覚のように感じ取っている。
「小島、情報連携を絶やすな。……敵の攻撃の起点、その全データを俺に直結させろ」
『なんだと!? お前、一歩も動けないはずじゃ……!』
小島の驚愕する声に、和泉は血まみれの口元を歪め、不敵に笑った。
「ああ。だが、手足が動けなくても……口ぐらいは動かせるさ。急げ!」
『無茶苦茶な野郎だ……! 了解した、全データお前に直結する! 脳味噌焼き切れるなよ、和泉!』
小島が狂ったようにコンソールを叩く。
母艦から放たれる数万のロックオン・パルス。その膨大な情報が小島を介して和泉の脳内へと流れ込み、和泉はそれを一つひとつ「弾き飛ばすべき重力干渉」として頭の中で処理していく。
「――昇るぞ。一機も、落とさせない」
和泉が意識の中で「上」を指し示した。
その瞬間、百五十五機の巨群は、まるで重力の鎖を断ち切られたかのように、絶望が待つ遥かな空へと向かって爆発的な加速を開始した。
音の消えた世界。
紫の羽を羽ばたかせ、無防備な王を囲むように、人類の牙は神の雷の真っ只中へと突っ込んでいく。
反撃の、第二フェーズが始まった。




