開花
ズドォォォンッ!!
和泉のアグレッサーが放ったレールガンの閃光が、三体目となる特異点(大型機)の強固な装甲を撃ち抜き、その直後に飛び込んだ第1、第2小隊の集中砲火が中枢を完全に沈黙させた。
最後の巨体が崩れ落ち、地響きと共に荒野へ沈む。
『大型機、全機の沈黙を確認。……よし、各機体、他中隊の援護へ回るぞ!』
和泉が息をつく暇もなく機体を反転させ、全方位から押し寄せていたはずの敵群へ向かおうとした、その時だった。
『和泉。その必要はないぜ』
通信帯から、小島の余裕を含んだ声が響いた。
和泉がメインカメラ越しに戦場を見渡すと、そこには予想を完全に裏切る光景が広がっていた。
「……マジか」
源田が、思わず感嘆の声を漏らす。
視界の先には、先ほどまで荒野を埋め尽くしていた数え切れないほどの敵機が、ただの黒焦げた鉄屑と化して転がっていた。
そして、その残骸の山の上に立ち、近接ブレードについたオイルを乱暴に振り払っているのは、傷だらけの機体を操る酒井だった。
『ハッ! 大隊長たちの獲物を奪っちまうかと思ったが、ちょうどいいタイミングで終わったみたいだな!』
酒井の獰猛な笑い声が通信に響く。
和泉たちが三体の特異点と死闘を繰り広げていたわずかな時間。その裏で、東日本の寄せ集めだったはずの部隊は、完璧な戦術的蹂躙を遂行していたのだ。
『敵の遠距離部隊は、こちらの制圧完了と同時にすべて沈黙させました』
金子優里の静かな報告が続く。
和泉を驚かせたのは、通常機体の群れだけでなく、あの驚異的な機動力を誇る陸戦の死神「緑の目」すらもが、すべてスクラップにされていることだった。
あの一機だけでも、通常のパイロットにとっては絶望的な脅威であるはずだ。
「片倉、酒井。……どうやった」
和泉の問いに、片倉がカラカラと笑いながら答える。
『簡単なことですよ、大隊長。俺たちはあんたみたいにバケモノじみた機動はできない。だから、意地でも一対一はやらなかった。ただそれだけです』
彼らが取った戦術は、極めて泥臭く、そして合理的だった。
まず、後方の小島が戦場全域を完璧にスキャンし、「緑の目」の現在位置と移動予測座標をリアルタイムで全機に共有。
それを受けた金子中隊が、面制圧の弾幕を張り巡らせ、「緑の目」の逃げ場と機動範囲を物理的に削り取っていく。
そして、動きが制限され、回避ルートを限定された「緑の目」一機に対し、片倉中隊と酒井中隊は必ず「四機以上」の連携で襲い掛かったのだ。
片倉の部隊が盾を構え、ワイヤーで敵の足を止め、死角からもう一機が牽制をかける。そこへ、酒井たち近接特化の喧嘩屋が限界駆動で飛び込み、確実にブレードを叩き込む。
数の暴力。しかし、それは練度と信頼がなければ一瞬で同士討ちになりかねない、極限の連携戦術だった。
『個の力で敵わないなら、束になってすり潰す。……これが、俺たちの戦い方だ。一機も通さなかったぜ』
酒井が胸部のコアを明滅させながら、誇らしげに言い放つ。
和泉は、眼前に広がる光景を見て、コックピットの中で思わず笑みをこぼした。
自分と源田が最前線で大型機を屠る間、彼らはただ背中を守られていたわけではない。一人ひとりが自身の役割を完全に理解し、互いの命を預け合い、連携という名の絶対的な「力」を証明して見せたのだ。
誰か一人でも欠ければ、この完璧な蹂躙は成り立たなかった。百五十五の鼓動が同じ熱で脈打ち、互いの命脈を固く結び合わせたこの瞬間、彼らは神すらも喰らい尽くす「一本の強大な牙」として真の完成を遂げていた。
『……上出来だ。お前たちなら、あの空の上でも絶対に死なない』
和泉の称賛に、全機の通信帯から短い、だが熱を帯びた歓声が上がる。
『和泉、周辺の敵戦力の完全掃討を確認。……母艦直下、確保したぞ』
小島の報告が、第一フェーズの完了を告げた。
百五十五機の頭上、一万メートルの遥か彼方には、依然として銀色の巨大な母艦が、神のように冷たく下界を見下ろしている。
だが、その真下に立つ戦士たちにもう迷いはなかった。
『総員、姿勢制御。……これより第二フェーズ、一万メートルへの強行突入に移行する』
和泉が操縦桿を引き絞り、アグレッサーの胸部にある王のコアが紫の閃光を放ち始めた、まさにその刹那だった。
『――待て和泉、気を引き締めろ!』
通信帯に、小島の硬く、緊迫した声が割り込んだ。
『頭上だ! 母艦の底部装甲が展開していく! ……異常な数値だ、奴らの防空システムが完全に起動したぞ!』
小島の送ってきたデータに、各部隊が息を呑む。見上げた一万メートルの空、銀色の巨大な腹から、無数の砲門が地上へ向けて一斉に牙を剥いていた。
神の雷が、彼らを撃ち落とそうと待ち構えている。
和泉は天を睨みつけ、獰猛な笑みを深めた。
『……歓迎してくれるってわけか。なら、その雷ごと食い破るだけだ。行くぞ!』




