仇敵、そして進化
地響きが、先ほどまでの殲滅戦とは明らかに違う重さと周期で荒野を震わせた。
「……ようやく、なりふり構わず出てきたか」
和泉がメインモニターの熱源反応を睨む。
敵のシステムは理解したのだ。中途半端な遅滞戦闘では、この「王のコア」を擁する部隊の歩みを止めることはできない。ならば、残された地上戦力のすべてを一点に集中させ、物理的な「壁」として圧殺するしかない、と。
砂塵の向こうから現れたのは、これまでの多脚型兵器を遥かに凌駕する巨大な影だった。
全高十メートルを超える、鋼鉄の魔獣。かつて絶対座標での防衛戦において、南雲と結城が自らの命を賭して、相打ちという形でようやく一機を仕留めたあの「特異点(大型機)」だ。
しかも、今回は一体ではない。確認できるだけで三体。さらにその後方には長距離狙撃に特化した新型の重火器ユニットが並び、その足元や周囲には、驚異の跳躍力と反応速度を持つ陸戦の死神「緑の目」が複数機、そして数え切れないほどの通常機体が、凄まじい脚力でこちらへ迫りつつあった。
「あのデカブツ……ッ!」
源田が操縦桿を握りしめ、歯を食いしばる。南雲と結城を喪ったあの日の光景が、先陣部隊である第1、第2小隊の生き残りたちの脳裏をよぎった。
『――源田。行けるか』
和泉の短い問い。
『……ああ。問題ない』
源田の答える声は、驚くほど低く、凪いでいた。
彼の白銀のメッシュが入った髪が、コアの紫の光と呼応するように静かに輝く。かつて大切な部下たちを散らした仇敵。しかし、今の源田にあるのは激昂ではない。南雲たちが繋いでくれた命を使い、和泉をあの空へ届けるという、鋼の義務感だった。
『総員に告ぐ! 大型機は俺たち(第1、第2小隊)で引き受ける! 第3、第4小隊は俺たちのバックアップに回れ!』
和泉の号令が飛ぶ。
『酒井、金子、片倉! お前たちは周囲の「緑の目」と遠距離型、それに有象無象の通常兵器をすべて完封しろ。一機もこちらへ通すな!』
「「「了解ッ!!」」」
和泉の号令と同時に、アグレッサーの推進器が紫の炎を噴き上げた。
三体の特異点が、迎撃のためにその巨大な砲門を和泉たちへと向ける。だが、放たれた高出力のビームが着弾するよりも早く、和泉はレールガンを腰溜めに構え、空中で反動を抑えながら引き鉄を引いた。
ズガァァァァァンッ!!
一閃。コアの全エネルギーを乗せた超音速の弾丸が、一体の特異点の主砲を根元から粉砕する。
『――仕留めるぞ!』
和泉の援護を受け、源田をはじめとする仇討ちの刃(第1、第2小隊)が、地面を滑るような高速ダッシュで南雲たちを屠ったのと同型の個体へ肉薄した。
大型機がその巨大な多脚で源田の機体を押し潰そうと振り下ろす。かつての彼なら、ここで後退を選ぶか、盾で必死に耐えるしかなかった。
だが、今の源田は退かない。
「……もう、誰も置いていかせない」
源田は盾で受け止めるのではなく、極限まで引き上げた機動力で、振り下ろされる巨大な脚を紙一重で回避した。
『死ね……ッ!』
同時に、コアの光を帯びて白熱化したブレードを一閃。源田の機体が地面を這うような低い姿勢から、敵の多脚の関節部を次々と切断していく。
脚を失い、大きく体勢を崩して巨体を傾けた大型機に対し、源田はそのまま一気に跳躍し、胸部の装甲へ向けて渾身の突きを叩き込んだ。
バキィィィィィィンッ!!
爆発的なエネルギーが大型機の内部で弾け、防衛網の中核を成す上位個体が、源田の手によって完全に粉砕された。
巨体がゆっくりと、崩れ落ちる。
源田は、沈黙していく仇敵の残骸をメインカメラ越しに見つめ、一瞬だけ目を閉じた。
(……南雲、結城。一つ、返したぞ)
だが、戦いは終わっていない。
周囲では、和泉の言葉通りに酒井や片倉たちが「緑の目」の強烈な突進を食い止め、無数の通常機体を薙ぎ払っている。さらに金子が遠距離ユニットとの正確な砲撃戦を展開し、後方では小島部隊が全域の被害状況と敵の動向を完全に掌握していた。
誰一人として欠けることなく、各部隊が自身の役割を完璧に果たしている。
『――ここを突破すれば、空への道が開く!』
和泉の叫びと共に、地上最後の決戦に向けて一斉に噛み合い始めた。




