牙達の連携2
敵の遅滞防御網には、金子中隊の弾幕によって取り返しのつかない巨大な穴が空いた。だが、和泉はその穴を抜けて即座に垂直上昇に移ることは不可能だと判断した。
「……甘くないな。穴の周囲に群がっている奴らを掃討しない限り、上昇中に背中を撃ち抜かれるぞ」
和泉の冷静な分析通り、防御網に穴は空いたものの、周囲からは地中や遮蔽物に隠れていた無数の多脚型兵器が、欠損部を埋めるべく黒い泥のように湧き出し続けていた。
『総員、上昇準備を中断。これより周辺敵戦力の徹底した「殲滅戦」に移行する!』
和泉の号令が飛ぶ。それと同時に、これまでの面制圧で莫大なコアエネルギーを放出し、砲身をオーバーヒートさせた金子中隊が、急速冷却と再充填のために後方へ下がった。
『優里、下がれ。その間は俺たちの部隊がバックアップに入る』
小島が指示を飛ばす。
金子中隊が一時的に戦線を離脱する空白の時間。そこを埋めたのは、小島率いる情報部隊と、和泉の直轄である伊達率いる補充兵小隊だった。小島は全軍のネットワークを繋ぎ直し、敵の増援ルートを予測・遮断。伊達たちは、その予測に基づいて正確無比な迎撃を行い、金子たちが無防備になる瞬間を完璧に守り抜いた。
「よし、掃除の時間だ! 溜まってた分、全部吐き出させてやるぜ!」
酒井の咆哮と共に、酒井中隊が再加速した。和泉のアグレッサー、そして源田の機体がその先頭を突き進む。彼らの目的は、母艦直下の「安全圏」を物理的に作り出すことだ。
だが、殲滅戦は過酷を極めた。敵もまた、王を逃がすまいと遮二無二突っ込んでくる。和泉や酒井が敵の中枢を叩き潰すために踏み込むたびに、その側面に死角が生まれる。
「――右だ! 瓦礫の影から三機!」
片倉の鋭い叫びと共に、数機の機体が和泉たちの側面に割り込んだ。片倉中隊だ。
彼らは華麗な撃破を狙わない。敵の足元をアンカーで絡め取り、盾を重ねて強引に体当たりし、時には被弾を覚悟で敵の射線に機体をねじ込む。
「片倉! むちゃするな!」
酒井が叫ぶが、片倉は不敵に笑う。
「へっ、これくらい泥を被るのが俺たちの仕事だよ! 攻撃はあんたらに任せた! その代わり、一発もカスらせやしねえ!」
片倉中隊の動きは、まさに「泥臭い盾」そのものだった。
最新鋭の機動でも、圧倒的な火力でもない。しかし、戦場の空気を読み、仲間が最も必要とする場所に最も早く駆けつける。その献身的なカバーが、和泉たちの突進を「無敵」へと変えていた。
アグレッサーのレールガンが至近距離で敵の核を貫き、源田の機体が盾で二機を圧殺する。その直後、源田の背後に迫った特攻機を、片倉がワイヤーで強引に引き倒し、踏み潰した。
「いい連携だ、片倉。助かった」
『大隊長にそう言ってもらえると、泥を被った甲斐がありますね!』
戦場を駆け回り、死角を埋め尽くす片倉中隊の活躍により、敵の包囲網は内側から確実に崩壊していった。
後方では、小島の情報部隊が、殲滅されたエリアから順次、垂直上昇のための「絶対安全座標」を特定していく。
「状況整理完了。敵地上部隊の六割を排除。……和泉、母艦直下まで残り数百メートルだ。金子のリチャージも間もなく終わる」
「了解した。……片倉、酒井、源田。あと一息だ。この荒野を完全に俺たちのものにするぞ」
和泉の言葉に、全軍が呼応するように駆動音を上げた。
ただの寄せ集めだった彼らは今、互いの死角を預け合う「最強の盾と矛」へと進化を遂げていた。




