牙達の連携
「チッ、逃げ足の速い野郎どもだ!」
酒井が苛立ちを込めて咆哮した。
最前線では、和泉のアグレッサーと源田の機体が嵐のような速さで敵陣を切り裂き、酒井中隊がその突破口を蹂প্রসし続けていた。しかし、敵の遅滞戦術は徹底している。こちらの突撃を察知するや否や、多脚型兵器は蜘蛛の子を散らすように距離を取り、遥か後方から正確な狙撃を浴びせてくるのだ。
「和泉! 敵の長距離狙撃ユニット、配置を変えたぞ! 遮蔽物を利用してこちらの射線を切っている!」
後方で全戦場を俯瞰する小島の鋭い警告。
回避に専念すれば足が止まり、攻撃に転じれば狙撃の餌食になる。和泉の超絶機動をもってしても、全軍を連れてこの精密な弾幕を突破するのは困難を極めていた。
『――金子、聞こえるか』
和泉が、激しい機動の中でも乱れない声で通信を入れた。
『はい、大隊長。いつでもいけます』
金子の返答は、凍てつくほどに冷静だった。
『敵の狙撃で足がすくんでいる。……掃除しろ。お前の火力が、この作戦の文字通りの「道」になる』
『了解。……金子中隊、全機、長距離砲戦形態へ。小島少佐、データリンクをお願いします』
「待ってたぜ、優里! 今送る!」
小島の素早い指示により、金子中隊の各機に敵狙撃ユニットの座標、風速、大気密度、そしてコアのエネルギー充填率がリアルタイムで同期された。
「……掃射開始」
金子の合図と共に、金子中隊を構成する三十機以上の通常機体が、背部や腕部にマウントされた大型砲を一斉に天へと向けた。それらは通常兵器ではあったが、動力源は「星」だ。コアから供給される過剰なまでのエネルギーが砲身に収束し、白銀の閃光となって放たれた。
ドドォォォォォォォンッ!!
一発の弾丸ではない。それは空間そのものを塗り潰すような「面」の暴力だった。
小島が算出した完璧な予測座標に基づき、金子中隊の弾幕は敵が逃げ込むはずの遮蔽物ごと、長距離狙撃ユニットを蒸発させていく。
「信じられない……。通常兵器で、あの距離を精密に制圧するなんて」
酒井中隊の隊員が、頭上を通過していく光の束に戦慄した。
だが、敵も黙ってはいない。
自分たちの陣形を物理的に消し飛ばしている金子中隊を、最優先排除対象として認識したのだ。
「反応あり! 前方の防衛線からだけではありません……前後左右、地中に偽装して隠れていた敵部隊が一斉に姿を現しました! 完全に包囲されます! さらに上空! 雲の隙間から『緑の目』が急降下してきます!」
オペレーターの悲鳴が上がる。
砲戦形態を維持する金子中隊は、その瞬間、最も無防備だった。
前後左右から殺到する無数の敵の伏兵、そして上空から音速を超えて迫る緑の軌跡。以前、和泉を窮地に追い込んだあの高性能機が、死神の鎌のように金子中隊の頭上へ振り下ろされる。
「直撃……ッ!」
金子が死を覚悟した、その時。
ギィィィィィィンッ!!
ガガガガガッ!!
頭上からの凄まじい金属音と、四方八方で敵機が弾き飛ばされる鈍い衝突音が同時に戦場へ響き渡った。
「……あぶねえあぶねえ。あんたの顔に傷がついたら、大隊長に怒られちまうからな」
金子のメインカメラに映し出されたのは、身軽な装備の通常機体群――片倉中隊だった。
片倉の機体は、上空からの一撃を自らの盾とブレードを交差させて強引に受け止め、同時に麾下の機体群が、前後左右から迫る敵の波を泥臭い体当たりや牽制射撃で食い止めていたのだ。
「片倉……中隊長!?」
「金子中隊はそのまま撃ち続けろ! チョロチョロ動くハエ退治は、俺たちの仕事だ!」
片倉は不敵に笑うと、敵の反動を利用して空中で機体を翻した。
「野郎ども、聞いたな! 俺たちは泥臭く、あいつらの死角を埋めるぞ! 一機たりとも金子中隊には近づかせるな!」
「「了解ッ!!」」
片倉中隊の機体群が、縦横無尽に戦場を駆け巡る。
ある機体は被弾覚悟で緑の目の射線に割り込み、ある機体はワイヤーアンカーを用いて四方から群がる敵機の機動を強引に削ぐ。
華々しい撃破こそ少ないが、彼らの徹底したバックアップにより、金子中隊は一歩も退くことなく、その破壊の鉄槌を振り下ろし続けた。
和泉の突破力、酒井の蹂躙力、小島の情報力、金子の殲滅力、そして片倉の献身。
それぞれの牙が完璧に噛み合い、敵の誇る鉄壁の遅滞防御網に、取り返しのつかない巨大な穴が空いた。
『道は拓いた。……全軍、加速しろ!』
和泉の号令が、九州の荒野に轟く。
爆炎と硝煙の向こう側、母艦の真下へと続く一直線の滑走路が、今、彼らの目の前に現れていた。




