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第一防衛線との激突

ズドドォォォンッ!!


九州の大地を踏みしめた百五十五の牙に対して、敵の第一防衛線から一斉に砲火が放たれた。

だが、その砲撃は「殲滅」を目的とした濃密な弾幕ではない。距離を取り、和泉たちの足を止めるための牽制――徹底した遅滞戦術だった。

一定の距離を保ちながらジリジリと後退する無数の多脚型兵器群。


「小賢しい真似を……!」

後方で戦況を分析する小島が毒づく。

だが、敵がどれほど距離を取ろうと、先陣を切る二機の「王と右腕」には無意味だった。


『源田! こじ開けるぞ!』

『はっ!』


和泉のアグレッサーと源田の機体が、コアの出力を限界まで引き上げ、爆発的な推進力で焼け焦げた大地を蹴り飛ばした。

牽制の砲弾が降り注ぐ中、二機はまるで重力から解き放たれたような異常な機動で弾幕の隙間を縫い、後退しようとする敵陣の懐へ瞬きする間に肉薄する。


「ッ、シィィッ!」


和泉がレールガンと近接ブレードを振るう。アグレッサーの紫の軌跡が閃くたびに、強固な装甲を持つ多脚型兵器が紙切れのように両断され、至近距離からのレールガンの砲撃で次々と爆散していく。

その死角を完璧にカバーするように、源田の機体が重厚な盾で敵弾を弾き返し、カウンターの徹甲弾を正確に関節部へ叩き込む。


『大隊長たちに続け! 陣形を崩すな!』

佐々木の号令と共に、伊達や石井ら、第1独立強襲大隊の生き残りたちが阿吽の呼吸で和泉と源田の突破口へ雪崩れ込んでいく。

彼らもまた、この七日間の地獄で「死のスピード」に完全に適応していた。


だが――。

その常軌を逸した突撃速度に、東日本から合流した他の部隊は一瞬、完全に置いてけぼりを食らっていた。


「な、なんだあの動きは……っ!?」

各部隊の遊撃・援護を担う片倉中隊の片倉が、モニター越しに目を剥く。

近接特化の酒井中隊でさえ、アグレッサーの反応速度に自身の機体の操作が追いつかず、踏み込みがコンマ数秒遅れていた。

「くそっ、速すぎる! あんな機動、システムが補助したって人間が耐えられるGじゃねえぞ……!」


彼らとて、各地で激戦を潜り抜けてきた精鋭だ。しかし、絶対座標で「神」を相手に七日間生き延びた和泉たちの練度と、コアとの同調深度は、彼らの常識を遥かに凌駕していた。

気後れと、圧倒的な実力差による一瞬の硬直。


その隙を突くように、敵の防衛線から第二波の砲撃が、立ち止まった酒井たちの部隊へ向けて放たれた。


『――行くぞお前たち、ついてこい』


直撃の寸前。

全機の通信帯に、和泉の静かな声が響き渡った。

同時に、アグレッサーから放たれた目に見えない重力制御パルスが、飛来する敵の砲弾の軌道を僅かに逸らし、酒井たちの機体を掠めて後方で爆発を引き起こした。


和泉は最前線で敵機を両断しながら、背後で立ち止まる仲間たちへ向けて通信を続ける。


『今の動きの差は、激戦を潜り抜けてきた時間の差もある。……だが、これからはお前たちの力が必要だ』


敵の装甲を蹴り砕き、和泉は言葉に熱を帯びさせていく。


『できるだろ、お前たちなら。……ここは俺たちの世界の、反撃の狼煙を上げる場所だ。そこにお前たちもいるんだ』


その声は、恐怖に足をすくませかけたパイロットたちの心臓に、直接炎を灯すような響きを持っていた。


『正面から突破するぞ。落ち着いて戦え。……誰ももう死なせない。信じてついてこい』


「――ッ!! やってやるよ、大将!!」


沈黙を破ったのは、喧嘩屋・酒井の咆哮だった。

「俺たちがビビって立ち止まってどうする! 肉の壁は俺たちが切り刻む! 酒井中隊、突撃ィィッ!」

酒井の機体がエンジンのリミッターを解除し、先陣部隊がこじ開けた突破口へと猛然と突っ込んでいく。


「金子中隊、火器管制オンライン! 酒井中隊の突出を援護、弾幕で敵の退路を塞ぎなさい!」

冷静さを取り戻した金子が、後方から正確無比な面制圧を開始する。


「片倉中隊、両部隊の死角を埋める! 俺たちで大隊長の背中を押し上げるぞ!」

片倉が身軽な機体を操り、戦場の隙間を縫うように全体のバックアップへと回った。


『……ふっ。これでようやく、一つの部隊になったな』

後方の小島が、モニターに映る百五十機の連動を見て、微かに口角を上げた。


和泉の鼓舞によって、百五十五の牙は完全に一つとなった。

圧倒的な物量で時間を稼ごうとした敵の第一防衛線は、恐れを捨て、覚悟を決めた人類の猛攻の前に、為す術もなく粉砕されていく。


反撃の狼煙は、今、確実に極東の空へと立ち上っていた。

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