関門橋防衛作戦2
「……小島、奴らわざとやりやがった。橋を再構築しているように見せて、本命の『質量体』をその後ろで淡々と組み上げていやがったんだ。囮にリソースを割かされたな」
中隊長のモニターには、霧の深淵から姿を現す、本命の巨大な構造体が映し出されていた。既存の橋を押し潰しながら、絶対的な強度を持ってこちら側に突き刺さろうとする巨大な楔。
「完成間近だ。あれが届けば、一気に雪崩れ込まれるぞ。……小島、今すぐ持てるすべての攻撃手段を準備しろ。空自の援護、海上からの艦砲射撃、ミサイル、全部だ」
和泉は、小島の返答を待たず、全軍が傍受可能なオープン回線へと切り替えた。その声は、下関の防衛線に立つ全将兵、そして基地で待機する仲間たちの耳に突き刺さる。
「総員、私は技術開発特務中隊の和泉だ。今すぐ戦闘態勢に移行しろ。俺たちは今から橋を渡り、あの質量体を粉砕する。……だが、もし間に合わず、橋がかかりそうになったら、構わず全力をもって俺たちごとやれ。迷うな。九州で命をかけた者たちのためにも、この国を守るぞ」
一瞬、全回線が静まり返った。これを聞いた兵士たちは、その言葉の重みを噛み締め、震える手で自らができる準備を加速させた。それはエンジニアによる限界を超えた機体調整であり、砲手による照準固定であり、誰もが「最悪の事態」を飲み込んだ上での、執念だった。
直後、和泉は通信を自部隊の専用回線へと切り替えた。ノイズの向こう、待機する7機のパイロットたちへ、静かに語りだす。
「――ここからは俺たちだけの話だ。聞いた通り、レールガンだけじゃ足りん。突っ込みながら弱点を探り、文字通り叩き壊すぞ。……俺たちはいつも期待はされなかったが、結果で示してきた。誰もなしえなかったことをやるのは、いつも俺たちだ」
中隊長機の駆動音が一段と高まり、機体が前傾姿勢をとる。センサーは敵の質量体の凄まじい密度を感知し続けているが、和泉の視線はすでにその「核」を捉えようとしていた。
「いつも通りに俺を、仲間を信じろ。いくぞ。最初の正念場だ」
「「了解!!」」
迷いのない、しかし静かな覚悟がこもった返声が、機動兵器のフレームを通じて和泉に伝わる。
「さあ、いくぞ。目標、対岸の質量構造物」
8機のアグレッサーが、崩れゆく橋の上を滑走し始めた。
その背後では、小島司令官が各方面へ怒号に近い無線を叩きつけている。
『各基地、スクランブル機のみならず全稼働アセットを掌握しろ! 予備機、練習機、形式は問わん、全機をこの空域へ回せ!』
『特科群! 自走砲を全速で前進させろ。有効射程への進入と同時に照準固定、即応態勢を取れ! 1秒も遅れるな!』
『海自、周辺の第4護衛隊群に緊急入電! イージス艦、ミサイル艦、全艦全力で関門海峡へ急行させろ! 最大火力を叩き込むぞ!』
飛び交う無数の通信。最前線の8機が死地へ向かうのと同様に、現場の人間たちもまた、自らが成すべき「次の準備」に心血を注いでいた。
東の空が、わずかに白み始めている。
夜明けの光が、黒く巨大な絶望と、そこへ突き進む8機の影を、残酷なほど鮮明に浮かび上がらせようとしていた。




