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空を穿つ算段

一般のパイロットたちが退室し、重厚な自動扉が閉じられた会議室。

その沈黙を破ったのは、壁際のコンソールに表示された「秘匿回線:接続中」の文字だった。この密談は、下関の司令部だけでなく、東京の官邸――日本の最高指導部もまた、固唾を呑んで見守っている。


ホログラム・テーブルを囲むのは、和泉、小島、そして源田ら四人の部隊長たち。


「さて、気合を入れる時間は終わりだ。ここからは現実的な『殺し方』の話をしよう」

小島がコンソールを操作すると、テーブル上に九州上空に浮かぶ銀色の母艦の拡大図が投影された。


「和泉が言った通り、進軍ルートは最短距離を取る。この絶対座標から崩落した関門海峡を越えて九州へ上陸、そのまま母艦の直下へと潜り込む」

小島はそこに鋭い赤いラインを引いた。


「だが、最大の問題はその先だ。母艦の現在高度は地上約一万メートル。酒井たちをどうやってあの『敵の母艦』まで届ける気だ? 地上からの砲撃は当てることはできても、あの巨体を叩き落とすほどの火力は我々にはないぞ」


小島の指摘は冷徹だった。対空兵器を集中させれば命中させることは可能だ。しかし、物理法則を超越して浮遊するあの要塞を、地上からの攻撃だけで沈めることは不可能であると、これまでの敗戦が証明していた。


「その必要はない」

和泉は、母艦を見据えたまま静かに答えた。

「飛ぶんだよ。百五十五機、全機でな」


「は?」

冷静な金子でさえ、思わず声を漏らした。

「和泉大隊長、物理的に不可能です。我々の機体重量で大気圏内を飛翔するには、専用の推力装置と莫大なエネルギーが……」


「エネルギーなら、コアのなかに腐るほどある。あいつらは重力を無視してここに降下してきた。あれは空間の質量そのものに干渉する力を持ってるんだ」


和泉の言葉に、小島が眉をひそめ、核心を突いた。

「おい和泉。まさかお前……機体をハブにして、全機の重力制御を強制的に同期させる気か?」


「そうだ」

和泉の瞳の奥で、紫の光が妖しく明滅する。


「命令もクソもない。俺が行くと言えば、あいつら(コア)は勝手に付いてくる。……問題ない。まとめて空へ引きずり上げてやるよ。カチコミの時間だ」


和泉の不敵な物言いに、片倉が呆れたように呟きつつも高揚した笑みを浮かべた。


和泉はホログラムに手をかざし、作戦の三段階を指し示した。

「第一フェーズ。九州上陸後、母艦直下までの強行突破。金子、後方からの面制圧で道を広げろ。第二フェーズ、母艦直下からの垂直上昇。小島、全機のネットワーク維持と回避ルートの演算を頼む。そして第三フェーズ……」


和泉は酒井を見た。

「酒井、お前たちの出番だ。母艦の外殻に取り付き、ハッチだろうが外壁だろうが切り裂いて、俺たちが内部に侵入するための血路を開け」


「最高だ。あのデカブツの腹を掻っ捌くなんて、これ以上の大舞台はねえな」

酒井は獰猛な笑みを浮かべた。


「源田」

「……ああ」

「俺の意識は全機の飛行制御に割かれる。突破口の維持は、お前に任せるぞ」


源田は、白銀の混じった髪を揺らし、和泉の目を真っ直ぐに見返した。その瞳には、かつて散っていった部下たちや南雲への想い、そして和泉を支え抜くという鋼の意志が宿っていた。


「……分かってる。あんたの背中は、意地でも俺が守り抜く。南雲や、死んでったあいつらの分まで……。大隊長、あんたを必ずあの空へねじ込んでやるよ。任せとけ」


源田の力強い言葉を確認すると、和泉はテーブルの時計を見た。


作戦開始ゼロアワーは、十二時間後の午前六時。夜明けと共に、進軍を開始する」


和泉の言葉に、官邸で見守る閣僚たちも息を呑んだに違いない。

一週間後には、ユーラシアからの「黒い津波」が日本を沈める。だが、彼らが五日で母艦を落とせば、敵の統制システムは崩壊し、津波はただの烏合の衆に変わるはずだ。


和泉は部隊長たちの顔を一人ずつ見据え、静かに告げた。


「休める者は少しでも休んでおけ。……明日から、人類の反撃の歴史が始まる」

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