背負いし者たち
ガション、ガション、ガション――!
絶対座標の巨大ハンガーに、重厚なロック音が連鎖していく。
宙を舞っていた百五十の「星」たちが、自ら進んで百五十機の通常機体の胸部マウントへと収まり、完全に定着した。直後、ただの鉄の塊に過ぎなかった無数の機体群のメインカメラが一斉に淡い光を放ち、低く力強い駆動音を響かせ始める。
「全機、システム起動……! 信じられません、エネルギー伝達率、同期プロトコル、すべて完璧にクリアしています!」
技術主任が、震える声で計器の数値を読み上げた。
和泉のアグレッサーに宿る「王のコア」がサーバー(中枢)となり、百五十のコアと目に見えないネットワークを構築したのだ。王の号令によって統制された星たちは、もはや機体を拒絶することなく、従順なる「牙」としてその身を器に委ねていた。
そして、その中心にいる和泉のアグレッサーのコックピット内でも、常識を覆す現象が起きていた。
「……ッ、ぐぅぅ……!」
操縦シートに深く沈み込んだ和泉は、全身を駆け巡る凄まじい熱と激痛に歯を食いしばった。
コアと深くリンクしたニューラル・コネクタを通じて、機体から和泉の肉体へ、未知の薬液とナノレベルの修復パルスが「逆流」してきていたのだ。
それは魔法のような「生命力の付与」などではない。
搭乗者を機体の一部、あるいは「戦闘を継続するためのパーツ」と見なし、極限状態まで削り取られた肉体を強制的に最適化する――コアに秘められた、人智を超えたオーバーテクノロジーの医療機能だった。
ひからびていた細胞が物理的に活性化し、骨と皮だけだった腕に、再び鋼のような筋肉が強引に編み上げられていく。限界を迎えかけていた心臓が、ショックを与えられたように力強い脈動を取り戻す。機体がパイロットを造り変えるような、凄絶な進化の苦痛だった。
プシュゥゥゥ……。
やがて、アグレッサーの胸部ハッチがゆっくりと開いた。
静まり返るハンガーの中、タラップから降りてきた和泉の姿を見て、小島は息を呑み、言葉を失った。
「和泉……お前、その姿……」
数分前まで杖(点滴スタンド)なしでは歩けなかったはずの和泉が、大地をしっかりと踏みしめて立っていた。肉体は地獄の七日間を戦い抜く前のような、洗練された闘気を放っている。
しかし、小島を絶句させたのはそこではない。
和泉の漆黒だった髪には、まるで雷に打たれたかのような「白銀のメッシュ」が鋭く入り込んでいた。そして、小島を見据えるその瞳の奥には、アグレッサーのコアと同じ、人ならざる「微かな紫の光」が神秘的に揺らめいていたのだ。
和泉自身も自らの手を見つめ、握り、開いた。
「魔法や奇跡じゃない」
和泉は、かつての力強さを完全に取り戻した声で言った。
「こいつの生命維持システムが、パイロットの肉体を戦闘可能レベルまで強制的に修復しているだけだ。ただの機械以上の、イカれた技術だがな。……小島。源田たちをここへ連れてこい。自分の機体に乗せろ」
「乗せるって……あいつらはまだ、ベッドから起き上がるのもやっとの……」
「乗れば治る。あいつらにも、反撃の牙を持たせるんだ」
十数分後。
医療スタッフに抱えられながら、源田、佐々木、石井、岩本の四人がハンガーへとやってきた。彼らもまた和泉の変貌した姿に驚愕したが、和泉の「乗れ」という一言に深く頷き、それぞれの機体へと這うようにして乗り込んでいった。
『――システム、同調開始』
源田は、自分のコア機のコックピットで荒い息を吐きながら目を閉じた。
和泉と同じように、彼にも機体から凄まじい熱と修復パルスが流れ込んでくる。肉体が無理やり繋ぎ合わされる激痛の中、源田の脳裏には、自分が率いていた第二小隊の部下たちの顔が次々と浮かんでは消えた。
(……俺は、隊長だったのに。あいつらを死なせ、南雲まで……)
彼らの命を背負いきれず、一度は心が完全に折れた。だが、今は違う。
自分が生き残った意味。遺された命の重み。そのすべてを両肩に背負い込み、母艦を叩き落とすという冷徹なまでの「覚悟」。
源田のその強烈な意志が、深い深度で自身のコアと共鳴を引き起こした。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
源田の絶叫が通信帯に響く。
数分後、ハッチを開けて姿を現した源田を見て、佐々木たちが息を呑んだ。
「源田隊長……髪が……」
源田の体から負傷の痕跡は完全に消え去り、力強い覇気が漲っていた。和泉のように瞳の色こそ変わらなかったが、彼の髪には、和泉と同じように「白銀の色」が鋭く混じっていた。
凄惨な地獄を潜り抜け、部下たちを喪った絶望を「力」へと変えた彼もまた、システムと深く同調した証を刻まれたのだ。
佐々木、石井、岩本も次々と機体から降りてきた。彼らに外見の変化こそなかったが、その肉体は完全に修復され、全身から闘志が溢れ出していた。
「……体が、動く。信じられないくらい力が湧いてきます」
岩本が己の拳を握りしめて呟く。
「中隊長」
源田が、真っ直ぐに和泉を見た。その顔には、かつて部隊を和ませていたような余裕はない。散っていった第二小隊の魂を背負い、全軍を率いる和泉の右腕として地獄の底まで付き従う、重厚で覚悟に満ちた指揮官の面構えだった。
「……いつでも、いけます」
和泉は彼ら四人の顔を見渡し、そして、自分たちを取り囲むように整列し、静かに主たちの搭乗を待つ百五十機の「新たなる牙」を見上げた。
「あぁ。準備は整った」
傷ついた英雄たちは蘇った。世界中から集結した規格外の力と共に。
だが、彼らが反撃の狼煙を上げるよりもわずかに早く、無情な世界は次なる「絶望」のカウントダウンをすでに始めていた。




