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拒絶される器

「出力異常! 第四バイパス回路、焼き切れました!」

「緊急停止だ! コアを機体から引き離せ! 暴走するぞ!」


野戦基地として急速に設営された絶対座標の巨大ハンガーに、整備部隊の指揮官の怒号と、けたたましいアラートが鳴り響いていた。


火花が散り、白煙が上がる。

東日本軍から持ち込まれた最新鋭の通常機体。その胸部マウントに、淡く光る「月のコア」を接続しようとした瞬間、凄まじいエネルギーの反発が起き、分厚い装甲と接続ケーブルが飴細工のようにドロドロに溶け落ちたのだ。


「駄目です……! これで二十機連続の失敗! 物理的な接続そのものを、コアのエネルギー場が弾き飛ばしています!」

計器を叩いていた技術班の主任が、血走った目で指揮官を振り返った。


「どういうことだ! エネルギー波長の同期プロトコルは合っているはずだろう!」

「数値上の問題ではありません! まるで……機体というただの『器』を、コア自身が意志を持って拒絶しているようなんです。移植された臓器が、強烈な拒絶反応を起こすように……!」


技術主任の悲痛な叫びに、指揮官はギリッと奥歯を噛み締めた。

目の前には、和泉たちに呼応して世界中から集まった百五十個の「神の力」がある。これを戦力化できれば、あの空に浮かぶ忌まわしい母艦すら叩き落とせる大部隊が誕生する。だが、肝心のコアが、人間の造った兵器に収まることを頑なに拒んでいるのだ。


「……何か、方法はないのか。このままでは、ただの光る石ころだぞ……!」

指揮官が焦燥に駆られ、コンソールを強く叩きつけた、その時だった。


「――お前たちの手には負えない」


重厚なハンガーの扉が開き、掠れた、だが場を圧するような声が響き渡った。


全員が振り返る。そこに立っていたのは、点滴のスタンドを引きずり、小島に肩を貸されながら現れた和泉だった。

老人のように痩せ細り、深い皺が刻まれたその顔色は、いつ倒れてもおかしくないほどに青白い。だが、その瞳だけは、爛々とした奇妙なほどの熱と光を宿して、ハンガーの奥を見据えていた。


「おい! 医療班は何をやっている! なぜ彼をここに入れた!」

整備の指揮官が怒鳴るが、小島が鋭い視線でそれを制した。


「俺が連れてきました。……こいつが、どうしても来なきゃならないって言うもんでね。それに、今の状況を打破できるのはこいつしかいないでしょう」


小島に支えられながら、和泉はふらつく足取りで、ハンガーの中央――作業台の上で淡い光を放つコアと、黒焦げになった通常機体の前へと真っ直ぐに歩み寄った。


「和泉中尉、危険だ! そのコアはエネルギーが不安定で……」

「不安定なわけじゃない」


和泉は技術班の制止を聞き流し、その痩せ細った手を、作業台で光るコアへとゆっくりとかざした。

すると、先ほどまで機体の装甲を溶かすほどに暴れ狂っていたエネルギーの波動が、嘘のようにピタリと収まり、まるで和泉の手にすり寄るように柔らかな光の瞬きへと変わったのだ。


「なっ……」

技術班や指揮官が絶句する中、和泉は静かに口を開いた。


「こいつらは、怒っているわけでも、暴走しているわけでもない。……ただ、待っているんだ」


「待っている……? 一体、何をだ?」

小島の問いに、和泉はハンガーの最奥、何重ものワイヤーで固定され、沈黙を保っている自らの搭乗機――ボロボロの『アグレッサー(灰色機)』を見つめた。


「俺のアグレッサーに積まれているコア……南雲の意志を取り込み、仲間たちの魂をこの場所に呼び寄せたあのコアは、こいつらにとっての『王』だ」


和泉の言葉に、ハンガーにいた全員が息を呑んだ。


「ただの器で縛ろうとしたって無駄だ。王からの号令がない限り、この百五十の星は絶対に目を覚まさない」


和泉は点滴のスタンドから手を離し、自らの足で、ゆっくりとアグレッサーへと歩き出した。

その背中は痛々しいほどに細く、歩みは遅い。だが、彼から放たれる圧倒的な気迫が、誰一人としてその前進を止めることを許さなかった。


「小島。……アグレッサーのコックピットを開けろ」


和泉の静かな命令。

それは、限界を超えた彼が再び「神の領域」へと足を踏み入れることを意味していた。

小島は数秒だけ沈黙し、何かを堪えるようにフッと息を吐くと、傍らのコンソールに歩み寄り、ロック解除ボタンを力強く叩いた。


「……後悔するなよ、大バカ野郎」


プシュゥゥゥ……。

重い排気音と共に、アグレッサーの胸部ハッチが開き、沈黙する王の玉座が、満身創痍のパイロットを迎え入れた。

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