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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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境界線の向こうへ

「準備しろ。……まずは、あの母艦を叩き落とす」


和泉の静かでありながら、絶対的な熱量を帯びたその宣言は、死の匂いが立ち込めていた病室の空気を一変させた。


「……やります」


最初に沈黙を破ったのは、源田だった。

彼は血の滲むほど強く拳を握りしめ、濡れた瞳で真っ直ぐに和泉を見つめ返した。その目からは、すべてを諦め、ただ自分の弱さを呪うだけの暗い絶望は消え去っていた。


「やらせてください、中隊長。南雲が……あいつらが残してくれたこの命、もう絶対に安売りなんてしません。あの空に浮いてるクソッタレな鉄塊をぶっ壊すまで……俺は、死んでも死にきれない」


「ああ、俺もだ」

「隊長、俺たちもやります。……絶対に行きましょう、あいつらのために」


佐々木、石井、岩本も、ベッドの上で力強く頷いた。

彼らの肉体はボロボロで、再び機体を操縦できるようになるまでには時間がかかるだろう。だが、一度は完全に折れ、燃え尽きていた彼らの心には、世界中の誰よりも鋭く、決して消えることのない「反撃の炎」が宿っていた。


和泉は、彼らのその目を確認すると、小さく、だが確かな信頼を込めて頷いた。


「焦るな。まずは体を治せ。……俺たちの本当の戦争は、これからだ」


そう言い残し、和泉はふらつく足取りで病室を後にした。

自動扉が閉まった直後、廊下の壁に背を預けていた小島が、呆れたような、それでいてどこか安堵したようなため息をついた。


「無茶しやがって。医療班が泣き叫んで探してるぞ、不良患者」

「……小島か」

「あの四人の顔つき、見違えたな。……お前が何を言ったかは知らんが、どうやら一番効く薬だったらしい」


小島は、点滴のスタンドを引きずる和泉の横に並び、肩を貸すように歩き出した。

老人のように痩せ細り、生命力を削り取られた和泉の体は、ただ歩くことすら綱渡りのような状態だ。だが、和泉の視線は決して足元に落ちることはなく、廊下の窓から見える外の景色――「絶対座標」へと向けられていた。


「上層部はパニックだぜ」

小島が窓の外を見やりながら口を開く。

「空から降ってきた百五十個の未知のエネルギー体が、お前のアグレッサーの周りを旋回して離れないんだからな。あれをどうするつもりだ、和泉」


「……全部使う。あれは、俺たちに呼応して集まった新しい『コア』だ。東日本の技術班に解析させて、すべて機体に組み込む。……俺たちだけじゃない、あいつらに立ち向かうための『軍』を創るんだ」


和泉の言葉に、小島は口笛を吹いた。

「百五十機のコア搭載機か。そいつは……とんでもねえ化け物部隊になりそうだ」


二人は歩みを止め、窓越しに夜明けの景色を見下ろした。

完全に昇りきった朝日が、激戦によって高熱で硝子化し、クレーターだらけになった大地を黄金色に照らし出している。


その中心で、主を失ったかのように立ち尽くす半壊した灰色機。そして、その周囲を無重力空間のように漂い、優しく寄り添う百五十の光の球体たち。

それは、凄惨な地獄の跡地とは思えないほどに、神秘的で、美しい光景だった。


和泉は、その光景からゆっくりと視線を上げ、遥か上空を見上げた。

青空の向こうに、薄っすらと、だが圧倒的な威圧感を持って浮かぶ巨大な銀色の浮遊構造体――「母艦」。

この七日間、人類を虫けらのように扱い、無尽蔵の兵器を投下し続け、世界を理不尽に作り変えようとしてきた諸悪の根源。


(これまでは、奪われた土地を取り戻すために戦ってきた。境界線を守るために、俺たちは血を流してきた)


和泉は、硝子ガラスに映る己の老いた顔と、空に浮かぶ銀色の絶望を重ね合わせるように睨みつけた。

山本。結城。南雲。そして、かつて「大侵攻」で散っていった無数の命。


彼らが命を繋ぎ、世界中の「星」を呼び寄せてまで守り抜いたこの「絶対座標」は、もはや敵の侵攻を食い止めるための防波堤ではない。

人類が、あの理不尽な神の領域へと反撃の狼煙を上げるための、最強の「橋頭堡(起点)」となったのだ。


「待っていろ」


和泉は、窓ガラスに痩せ細った手を押し当て、静かに、しかし絶対の意志を込めて呟いた。


「俺たちが……境界線の向こう側へ、行く」


それは、絶望に抗い続けた人類が、初めて空に向かって牙を剥いた瞬間だった。

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