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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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意志

司令部の巨大な防弾ガラスの向こう、空を彩っていた百五十余りの光の筋は、まるで自らの還るべき場所を知っているかのように速度を落とし、絶対座標へと舞い降りた。


それらは大地に突き刺さるでもなく、弾け飛ぶでもない。

絶対座標の中心、和泉が残してきたボロボロの灰色機――アグレッサーの周囲を優しく囲むようにふわりと空中に留まり、まるで主を待つように静かに淡い光を放ち始めたのだ。


「……集まってきたな」


和泉の掠れた声に、小島や司令官たちが息を呑む。

百五十の光の球体は、和泉が戦場の中心に墓標のごとく突き立てたあの紫のブレードと灰色機を中心に、ゆっくりと旋回している。それは、死に絶えたはずの絶対座標に、新たな「星の鼓動」が宿った瞬間だった。


和泉は、その光景からゆっくりと視線を外し、傍らにあった点滴のスタンドを握り直した。


「おい和泉! まだ動くなと言っているだろう!」

小島が声を荒げるが、和泉は立ち止まらない。

「……行かなきゃならないんだ。あいつらが、待っている」


必死に引き留めようとする医療チームを、和泉はその鋭い眼光だけで退けた。

一歩、また一歩。骨と皮ばかりになり、老人のようにひからびた足が震える。心臓が悲鳴を上げている。だが、彼の中に宿る精神コアが命じていた。止まるな、と。


辿り着いたのは、同じ野戦病院内に設けられた大部屋の病室だった。

そこには、源田、佐々木、石井、岩本の四人が、誰一人として言葉を発さず、死人のような顔でベッドに横たわっていた。


「……隊長」


最初に気づいたのは、岩本だった。

その掠れた声に反応し、源田がゆっくりと上体を起こす。和泉の変わり果てた姿を見て、源田の虚ろな瞳に、さらに深い絶望と痛みの色が走った。


「中隊長……俺……俺が撃てなかったから……南雲が……」

血の滲むような懺悔。源田の頬を、再び止めどない涙が伝う。


「言うな、源田」

和泉は、震える足で源田のベッドの傍らまで歩み寄り、その肩に痩せ細った手を置いた。


「俺も……夢を見た。深い闇の中で、あいつらと会った」

「……え?」

「南雲も、山本も、結城も……誰一人として、お前を責めてなんかいなかった。共に地獄を歩んでこれたことを、最後まで守り抜けたことを、感謝していた」


和泉の言葉に、病室の空気が微かに震えた。

「嘘だ……あいつらが、そんな……」

「嘘じゃない。俺の機体に……アグレッサーのコアに、あいつらの魂の残滓が刻まれている。そして、外を見てみろ」


和泉が指差した窓の向こう。絶対座標の中心で主を待つ灰色機の周囲に、百五十の光の球体が寄り添うように浮かび、夜明けの空を神秘的な色に染め上げている。


「世界中に散らばっていた月のコアが、南雲たちの最期の呼びかけに応えて、ここへ集まった。あいつらは、自分たちの命を燃やして、俺たちに反撃の『牙』を遺していったんだ」


和泉は病室にいる四人、生き残った仲間たちを一人ずつ、真っ直ぐに見つめた。

肉体は限界を迎え、老人のような外見になろうとも。その声には、かつて七日間の地獄を率いたあの力強い中隊長の威厳と、決して折れない意志が宿っていた。


「佐々木、石井、岩本。そして、源田」

名前を呼ばれた四人が、弾かれたように顔を上げる。その瞳にはまだ涙が溜まっていたが、絶望だけの暗闇からは確実に抜け出そうとしていた。


「失ったものは、もう戻らない。だが、あいつらが繋いでくれたこの命と、新たに集まったこの百五十の『星』を、無駄にすることは俺が絶対に許さない」


和泉は再び窓の外へと視線を向けた。

見上げる空の遥か上空には、すべての元凶である巨大な銀色の浮遊構造体――人類を虫けらのように扱い、この星を理不尽に作り変えようとする「母艦」の一つが沈黙したまま浮かんでいる。


「これまでは、境界線を守るための戦いだった。だが、これからは違う。あいつらの仇を、この世界の理不尽を、俺たちが終わらせる」


和泉の言葉に、絶望に沈んでいた四人の瞳の奥で、小さな、だが決して消えることのない「殺意」と「決意」の火が灯る。


「準備しろ。……まずは、あの母艦を叩き落とす」

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