魂をつなぐ声
死角から振り下ろされた暗緑色の凶刃が、源田のコア機を両断しようとしたその刹那。
「させるかァッ!!」
斜め前方から、二つの影が猛然と割り込んだ。コア機を駆る南雲と、通常機で限界以上の機動を見せる結城だ。
二人は阿吽の呼吸で、新手の異形が放つ凶刃を弾き、いなした。南雲がコア機の出力で強引に太刀筋を逸らし、結城がその死角から通常機のアサルトライフルで関節部を執拗に狙い撃つ。
和泉に匹敵する速度を持つ敵の猛攻を、完璧な連携による防御で辛うじて受け流していく。
「源田、早く体勢を立て直せ!」
南雲が叫びながら、装甲を軋ませて敵の刃を大剣で受け止める。二人の目的は敵の撃破ではない。源田が再び戦闘態勢に入るための「時間」を稼ぐことだ。
だが、戦場はすでに降り注いだ「赤い光線の雨」によって、地形ごと無惨に作り変えられていた。
連携の中で後退のステップを踏んだ結城の機体が、突如として大きく体勢を崩した。彼の足元にあったのは、砲撃によってすり鉢状に深くえぐり取られた、隠れたクレーターの縁だったのだ。
崩れやすい地盤に足を取られた、コンマ数秒の「淀み」。
和泉と同等の動きを持つ特異点が、その隙を見逃すはずがなかった。
「結城ッ!!」
南雲の制止も間に合わない。暗緑色の閃光が真っ直ぐに突き出され、無機質な刃が結城の通常機のコックピットを正確に、そして無慈悲に貫き通した。
通信機から、結城の絶叫すら聞こえることはなかった。
「この野郎ォォォッ!!」
カバーに入るため、南雲が怒りに任せて自らの機体を盾にするように突進する。しかし、敵は結城を貫いた刃を引き抜くことすらせず、空いたもう片方の腕を無造作に振り抜いた。
装甲を容易く引き裂く轟音。
南雲のコア機もまた、胸部装甲を深々と貫かれていた。コックピット内に致命的な損傷を告げる警報が鳴り響き、南雲は大量の血を吐き出す。
「……捕まえたぜ、バケモノ……ッ!」
だが、南雲は倒れなかった。機体の機能が停止する寸前で、自らを貫いた敵の巨大な腕を、機体の両腕でがっしりと抱え込んだのだ。
関節部を強制的にロックし、絶対に離さない構えをとる。
「源田ァ! 撃てェェッ!! 俺ごとこいつを真っ二つにしろ!!」
南雲の血を吐くような絶叫が通信に響く。
体勢を立て直した源田は、すでに重火器の照準を敵に合わせていた。
だが、引き金に掛けた指が、どうしても動かない。射線には、南雲の機体が完全に重なっている。撃てば、確実に味方を殺すことになる。
「う、あ……くそっ……撃てねえ……!」
源田の顔が苦痛に歪む。今まで共に地獄の七日間を耐え抜いてきた仲間を、自分の手で斬り捨てる勇気など、彼にはなかった。
「……馬鹿野郎が。優しすぎるんだよ、お前は」
南雲は血まみれの口元で微かに笑った。機体の出力が急速に低下し、敵の凄まじい力によって拘束が解けそうになっている。このまま自分が力尽きて敵を放せば、源田も和泉も背後からやられる。
ならば、答えは一つしかなかった。
南雲は躊躇なく、自らの命と引き換えにするコアの自爆シークエンスを起動した。
「中隊長、源田。……あとは頼むぞ」
凄まじい光が、南雲と結城の機体、そして異形の敵を包み込もうとした、その瞬間だった。
絶望と悲しみに染まる戦場の通信回線に、いや、彼らの精神の奥深くにある「コア」を通じて、透き通るような、それでいて確かな意志を持った『謎の声』が響き渡った。
『――私が皆をつなぎます。伝えて回ります。ここへ来るようにと。』
それは誰の声だったのか。
直後、全てを白く染め上げる圧倒的な閃光が、絶対座標の大地で弾け飛んだ。




