激昂の陣
「ふざけるなァァァァッ!!」
紅蓮に染まった視界の中で、佐々木の絶叫が戦場に木霊した。
自らを庇って散った山本。その命の重さが、残された者たちの悲しみを瞬時に「激昂」へと変えた。
「死なせてたまるか……お前らが、これ以上死んでたまるかァッ!」
佐々木は半ば狂乱しながらも、その射撃の精度はかつてないほど研ぎ澄まされていた。アサルトライフルの銃身が焼き切れる寸前まで連射し、迫り来る敵の群れの関節を次々と撃ち抜いていく。
結城と石井もまた、無言のまま限界を超えた機動で佐々木を援護し、弾幕を張り巡らせる。
そして、前線を張る源田、南雲、岩本のコア機は、まるで鬼神のごとき戦いぶりを見せていた。
「道連れにしてやるって言ったよなァ! 来いよ! 全部俺が叩き潰してやる!!」
源田の機体が怒りの咆哮を上げながら、両腕の重火器で敵の装甲壁を粉砕する。
山本の死という絶望的な痛みが、彼らのリミッターを完全に破壊していた。一歩でも退けば、山本の死が無駄になる。後ろで上陸しようとしている味方が死ぬ。
その強烈な怒りと使命感が、たった7機の部隊に、数万の群れを押し留めるという物理法則を無視した防衛線を維持させていた。
だが、その熱狂的な激闘の最中――。
「……ッ!? 何だ、この『寒気』は……」
源田が操縦桿を握る手を震わせた。
それはセンサーの警告よりも早く、彼らの「魂」が直接感じ取った根源的な恐怖だった。和泉だけでなく、南雲も、岩本も、そして通常機の4名さえもが、戦場の空気が一瞬にして凍り付いたような錯覚に陥った。
四国の橋の向こう側。そこから、これまでの敵とは一線を画す「何か」が近づいている。
機体の機械的なアラートが鳴り響くのと同時に、その「何か」は姿を現した。
ズドドォォォォンッ!!
四国から海を越えて架けられた長大な橋。その向こう側から、空間を切り裂くような凄まじい衝撃波と共に、暗緑色の影が飛び出してきた。
「なんだ……あのでかさは!?」
前衛で敵を薙ぎ払っていた源田が、驚愕に目を見開く。
それは、これまでの高機動型「緑の目」を二回り以上も巨大化させたような、異形の装甲を纏った個体だった。
通常、機体が巨大になればなるほど、その動きは鈍重になる。物理法則の絶対のルールだ。
だが、「それ」は違った。
ドパァァァンッ! と空気を蹴り破るような破裂音を残し、その巨大な個体は一瞬で数百メートルの距離を「跳躍」した。残像すら見えない。ただ、不気味な暗緑色の光の軌跡だけが空中に描かれる。
「速い……ッ!? あの質量で、緑の目より速いだと!?」
南雲がミサイルを放つが、新手の敵は空中で重力を無視したような急制動をかけ、ミサイルの雨を紙一重で、かつ「最小限の動き」で回避してみせた。
その洗練された回避運動。そして、無駄を一切削ぎ落とした神速の機動。
和泉は、その動きを見た瞬間、背筋に強烈な悪寒が走るのを感じた。
(動きが……俺と、同じだ……!?)
それはただの機械の動きではない。和泉が長年の死闘とコアとの同調によって培ってきた、極限の三次元機動。それを、敵の集合知能が学習し、和泉という「特異点」を殺すためだけに生み出した「もう一人の特異点」だった。
「来るぞ! 陣形を固めろ!!」
和泉が叫んだ直後、暗緑色の軌跡が戦場をジグザグに駆け抜けた。
新手の敵は、和泉を真っ向から相手にするつもりはなかった。
和泉の迎撃をまるで予測していたかのように空中で不可解な軌道を描き、前線で奮闘していた源田の機体へと狙いを定めたのだ。
「舐めるなァッ!!」
源田が迎撃態勢を取り、重火器を振り向ける。
しかし、新手の速度は源田の予測を遥かに上回っていた。
敵は源田の正面から突っ込むと見せかけ、凄まじい推進力で地面を滑るように急激な回り込みを見せる。歴戦のパイロットである源田の反応速度すら置き去りにし、完璧な「死角」――機体の真後ろ・斜め下という、センサーが最も働きにくいポイントへと、一瞬で潜り込んだのだ。
「な……ッ!?」
源田が気づいた時には、すでに遅かった。
「源田、避けろ!!」
和泉の絶叫が響く中、死角から迫る「和泉と同じ速度」を持った異形の敵の凶刃が、源田のコア機へと無慈悲に振り下ろされようとしていた。




