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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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紅蓮の中で

九州方面に架けられた長大な橋の向こうから、視界を完全に埋め尽くすほどの絶望的な質量が押し寄せてきた。


「……ここを通すわけにはいかない」


和泉は灰色の機体を限界まで駆動させ、真っ先に前へと蹴り出した。背後で上陸の足場を固めようとしている東日本軍に敵の波を到達させないため、彼自身が「防波堤」となって敵の群れに突撃しようとした、その時だった。


敵の集合知能の不可解な戦術が、牙を剥いた。

和泉の特攻をあえて無視するかのように、「緑の目」の群れと、四方からの苛烈な遠距離砲撃の狙いが、突如として後方の一点へと集中したのだ。


目標は――佐々木の機体だった。


和泉のフォローに回るため、一瞬だけ足を止めてしまった佐々木。そのわずかな隙を、戦術AIにも等しい冷徹な敵の知能が見逃すはずがなかった。


「な……ッ!?」

佐々木がアラートの絶叫に気づき、回避行動を取ろうとした時には、すでに上下左右の退路を神速の「緑の目」に塞がれていた。そして、その包囲網の中央に向けて、空間を真っ赤に染め上げる高出力の光線ビームが放たれる。


死を確信し、佐々木が目を閉じた瞬間。


「佐々木、避けろォォッ!!」


通信機をつんざく絶叫と共に、第1小隊の山本が自らの機体のスラスターを暴走させ、佐々木を突き飛ばすようにして射線へと割り込んだ。


ズガァァァァァァァァッ!!!


圧倒的な光の奔流が、山本の機体を真正面から飲み込んだ。

通常機の装甲など、高出力のビームの前では紙切れと同義だった。装甲が溶け、フレームが蒸発し、機体そのものが内側から爆散する。


「山本ォォォォッ!!!」

吹き飛ばされた機体の中で、佐々木が血を吐くような悲鳴を上げた。


凄まじい爆発と、着弾によって巻き上げられた土砂。そして、なおも降り注ぎ続ける赤い光線の雨によって、戦場の視界は完全に奪われていた。

砂塵と硝煙が泥のように空間を濁らせ、センサー類も激しい電波障害で使い物にならない。何も見えない紅蓮の闇の中で、通信モニターに点灯していた山本のバイタルサインだけが、無慈悲に「消失ロスト」を告げていた。


和泉は、操縦桿を握る手から一瞬だけ血の気が引くのを感じた。

七日間の地獄を共に耐え抜いた僚機が、味方の到着を目前にして死んだ。その痛切な事実を悟ったのだ。


だが――灰色の機体は、ほんの一瞬たりとも歩みを止めなかった。


「……ッ、ウオォォォォォッ!!」


視界ゼロの死地の中で、和泉の機体は紫色の閃光をさらに激しく噴き上げ、盲滅法ではなく、正確無比な太刀筋で迫り来る「緑の目」を次々と両断していく。

悲しみに暮れる暇などない。立ち止まれば、山本が命に代えて守った佐々木が、そして他の仲間たちが死ぬ。


『中隊長……! 山本が……山本がッ!』

通信機越しに、パニックに陥りかけた佐々木の声が響く。


「止まるな!!」


和泉の、冷徹なまでに鋭い一喝が、混迷する部隊の通信回線に叩きつけられた。


「今は下を向くな! 前を見ろ! 泣くのは全部終わってからだ!」


和泉は自らの機体を敵の群れのど真ん中へとさらに深く突っ込ませながら、残された仲間たちに向けて叫んだ。


「山本が繋いだ命だ! 無駄にするな! ……お前たちにやれることをやれッ!!」


その言葉は、絶望に呑まれかけていた仲間たちの心に、再び強烈な火を点けた。

悲鳴は怒号へ変わり、恐怖は殺意へと変わる。


「……ああ、やってやるよ……! 一機残らず、道連れにしてやる!!」

源田が、南雲が、そして生き残った全員が、壊れかけた機体を再び前へと推し進める。


砲撃で何も見えない紅蓮の空の下。

一人の仲間の死を乗り越え、英雄たちは悲しみを刃に変えて、押し寄せる絶望の波に最後の抗いを叩きつけようとしていた。

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