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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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響く声

列島を分断した「断裂」から、七日間。

関門海峡を背にした臨時バンカーの周辺は、夥しい数の敵の残骸で埋め尽くされていた。


たった七日間。しかし、一日の大半を絶え間なく押し寄せる敵の迎撃に費やさなければならない8人のパイロットにとって、それは永遠にも等しい地獄の時間だった。


彼らの体力と気力は、とうの昔に限界の底を突き破っている。

コックピットの中は汗と血の匂いが充満し、食事といえば、操縦桿から片手を離してかじる味気ない固形栄養食と、チューブからすする生ぬるい水のみ。まともな睡眠など取れるはずもなく、意識は常に泥のように混濁していた。


とりわけ、佐々木、山本、結城、石井の4名が搭乗する「通常機」の神経のすり減りようは、筆舌に尽くしがたいものがあった。

彼らの乗る量産機の出力では、敵の装甲にまともなダメージを与えることすら難しい。一歩間違えれば即死という極限の緊張感の中、敵の関節部やセンサーといった数ミリの隙間を、完璧な連携で正確に削り続けなければならないのだ。その精神の摩耗は、肉体の疲労を遥かに凌駕していた。


そんな通常機の4名と、源田、南雲、岩本たち「コア機」に乗る3名に、細切れの休息を回すため――部隊の要である和泉は、この七日間、文字通り「ほぼ24時間」戦い続けていた。


九州方面から架けられた橋を渡ってくる敵。そして、四国方面からも海を越えて架けられた長大な橋を渡り、絶え間なく雪崩れ込んでくる敵。

アラートが鳴るたびに、和泉は微睡みすら拒絶して機体を跳躍させ、単騎で死地へと飛び込んでいった。彼の機体が放つ紫色の光は、仲間たちを守る絶対的な盾だったが、常軌を逸した出力を引き出し続ける代償は、和泉の命そのものを確実に削り取っていた。


限界だった。

全員の命の炎が、今にも風前の灯火となって消えようとしていた、その時である。


『――西日本を見捨てるなんて初めから間違ってたんだ! すぐに工場を開けろ!』

『港のタンカーを全部出せ! 橋がねえなら、船と飛行機で強行上陸してやる!!』


ノイズに塗れた通信機からではない。

和泉や源田たちの機体に積まれたコアが淡く共鳴し、彼らの意識の底に「声」が響き渡ったのだ。


「……なんだ、今の声は……?」

疲労で混濁していた佐々木が、信じられないものを見るように呟く。


それは、幻聴ではなかった。東日本全土で沸き起こっている、彼らを助けようとする人々の凄まじい熱狂と意志。それが距離を超え、魂を触媒とするコアを通じて、ダイレクトに絶対座標へと流れ込んできたのだ。

そして、その無数の声の波を押し退けるように、かつて共に死線を潜り抜けた男の、力強い決意の声が響いた。


『――俺が先陣を切って、空から突っ込む。……道は俺が作る。あんたらの本隊は、ただそれに続け』


作戦会議室で放たれたであろう、小島のあの言葉。


その声を聞いた瞬間、8人の心臓をかつてないほどの激しい鼓動が打ち据えた。

自分たちは見捨てられたわけではなかった。この孤独な絶対座標で泥を啜りながら戦い続けた時間は、決して無駄ではなかった。東日本に残された軍も民間も、日本という国全体が、自分たちを迎えに来るために今、こちらへ向かってきているのだ。


「……聞いたか、お前ら」


極度の疲労で掠れていた和泉の声に、静かだが、鋼のような「熱」が宿った。

彼のコックピットの中で、警告音を鳴らし続けていたバイタルモニターが、再び力強い鼓動を刻み始める。


「もうすぐ、東の連中が来る。……部屋を散らかしたままじゃ、あいつらに笑われるぞ」


和泉の目が、限界を突破して凄絶な光を放つ。

彼は、己の命の底に残っていた最後の気力を、文字通り最後の一滴まで絞り出した。


「もう一仕事するぞ」


静かだが、鋼のような決意を込めたその言葉とともに、灰色の機体から爆発的な紫の閃光が噴き上がる。

和泉の機体は、大地を砕くような踏み込みで、橋を渡って押し寄せてくる敵の群れへと突撃した。


狙うは、部隊にとって最大の脅威である二種。

分厚い装甲壁とともに移動し、厄介な砲撃を仕掛けてくる「遠距離型」。そして、かつて自分を死の淵に追いやった、神速の機動を誇る「緑の目」だ。


和泉は、遠距離型が放つ高出力の光線を紙一重で掻い潜り、その懐に潜り込むと同時にレールガンを接射。防壁ごと敵の胴体を吹き飛ばす。

そのまま空中で反転し、背後から襲いかかってきた高速駆動の「緑の目」に対し、抜刀したブレードで一閃。紫の軌跡が空中に幾何学模様を描き、高機動の悪魔たちが次々とバラバラになって墜落していく。


「中隊長に、これ以上泥を被らせてたまるかァッ!!」


源田、南雲、岩本のコア機が猛然と後に続く。

そして、佐々木たち通常機の4名もまた、もう動かないはずの肉体を意志の力だけで強制的に起動させた。


「やれる! 俺たちならまだやれる! 一機残らずスクラップにしてやれ!!」


8機の英雄たちが、残された命の炎を燃やし尽くすように、絶対座標の荒野で狂乱の舞を繰り広げる。

彼らの背中を、そして戦場全体を、東から昇り始めた夜明けの光が、眩しく照らし出そうとしていた。

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