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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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綾羅木強行上陸

若狭湾から出撃した大艦隊は、日本海を西へと猛烈な速度で突き進んでいた。


海面を割って進むのは、海自の護衛艦群だけではない。装甲板を無骨に溶接された民間の大型タンカーやコンテナ船が、波を蹴立てて陣形の中央を進んでいく。

上空には空自の戦闘機と、極限まで改修を受けた輸送機の大編隊。東日本が持ち得るありとあらゆる戦力が、空と海を埋め尽くしていた。


目指すは、関門橋のバンカー。和泉たちが死闘を繰り広げている「絶対座標」への最短距離となる上陸地点――山口県、綾羅木あやらぎ海岸である。


『……目標地点(綾羅木海岸)まで、あと三十海里!』


旗艦の輸送機内で、オペレーターが緊張で声を震わせた。

このまま直進すれば、間もなく敵の対空・対艦防衛網の射程圏内に入る。通常であれば、巨大な防壁と共に移動する「遠距離型」が沿岸部に陣取り、高出力の光線ビームを雨霰と降らせて船団の大半を海の藻屑とする距離だ。


「各艦、砲雷撃戦用意! 狙いは目前の海岸じゃねえ、関門海峡を挟んだ『九州側』の沿岸に集結している敵の群れだ!」

艦隊司令の怒号が通信に飛び交う。


「ありったけの火力を叩き込んで、和泉の負担を少しでも減らせ! 全艦、一斉射撃ッ!!」


ズドォォォォンッ!!

海原を震わせ、護衛艦の主砲が一斉に火を吹いた。垂直発射管から無数のミサイルが空へ放たれ、白煙の尾を引いて九州側の沿岸へと殺到する。

着弾の閃光が地平線を染め上げ、西日本を埋め尽くす敵の群れの一角が吹き飛ぶ。東日本からの、明確な反撃の第一撃だった。


だが、綾羅木海岸で待ち受ける敵の防衛線が完全に沈黙したわけではない。

海からの砲撃に呼応するように、分厚い装甲壁と一体化した遠距離型が動き出し、上空の輸送機編隊へと砲門を向けた。


「敵の遠距離型、対空射撃きます!」

「問題ない! ここは俺たちがこじ開ける!」


輸送機から弾き出されるように、真っ先に空へ飛び出したのは、東日本軍の切り札である「コア機」を駆る第3小隊、第4小隊の隊長たちだった。


「道を作るぞ! 続け!」


重力に逆らうような異常な機動で対空光線を掻い潜り、2機のコア機が海岸の防壁へと肉薄する。

第3小隊長機がブレードにエネルギーを収束させて分厚い防壁を十文字に切り裂き、その隙間から第4小隊長機がレールガンを接射。防壁ごと遠距離型のコアを撃ち抜き、誘爆の炎が海岸線を赤く染めた。


「遠距離型、および防壁の破壊を確認! 降下ポイント、開きました!」

「上等だ! 特務隊、行くぞ!」


2人の隊長が切り開いた空間へ向けて、小島が自らの機体を降下させる。

彼が乗っているのは、一騎当千のコア機ではない。あくまで東日本軍に配備されている「通常の量産機」だ。だが、歴戦の指揮官である小島の操縦技術は、限界を超えた動きで機体を捻り、着地と同時に手にした重アサルトライフルで正確に敵を撃ち抜いていく。


小島に続き、部隊の残り6名のパイロットたちも次々と海岸へ着地する。


降下地点ドロップポイントの残存兵力は俺たちが掃討する! 船団、そのまま突っ込め!!」


小島たち7機による、息の合った制圧射撃。通常機体でありながらも、彼らの洗練された連携は降下地点周辺に陣取る敵を瞬く間にスクラップに変えていく。


「海岸線にクリアランス確保しました!」

「よし、上陸開始だ!」


小島たちが血路を開いた綾羅木海岸の砂浜に向け、巨大なタンカーの群れが全速力で突進してくる。

彼らは減速すらしなかった。凄まじい水しぶきと地響きを立てながら、数万トンクラスの巨大船が、次々と西日本の岸辺に「座礁」させられたのだ。


ガガガガガッ!! と砂と岩、そして鋼鉄が削れる轟音が響き渡る。

完全に陸地に乗り上げたタンカーの船首がパージされ、巨大なスロープが綾羅木の地へと叩きつけられた。


それは、船という名の巨大な「橋」だった。

若狭湾から日本海を越え、東日本から物資と兵器を満載してきた無数の船が、自らの船体を足場にして、西日本への強行上陸ルートを完成させたのである。


「上陸開始! 車両部隊、前へ!」


スロープから装甲車、輸送トラック、そして続々と後続の部隊が西日本の地を踏みしめる。空からは、安全を確保された空域をパラシュートの華が埋め尽くしていく。


「……本当に、届きやがった」


海岸線を制圧した小島の機体の横で、部下の一人が震える声で呟いた。

物理的な断裂を越え、東日本の巨大な戦力が、ついに西日本の地へと到達したのだ。


小島は、自らの機体のハッチを開け、輸送艦から慎重に降ろされる「特別コンテナ」――政府から接収した『月の素材』を収めた箱を見つめた。第3、第4小隊の隊長たちが「和泉が身につけるべきもの」だと断言した、謎の物質。


「ここはただの玄関だ。本命のバンカーまでは、まだ少し距離がある」


小島は再びコックピットに身を沈め、通信機を通じて上陸した全軍に大音声を轟かせた。


「全軍、進撃陣形を組め! 極上の土産を持って、俺たちの英雄を迎えに行くぞ!!」


綾羅木の海を割って架けられた鋼鉄の橋を渡り、東日本の大軍勢が、英雄の待つ奪還の座標へと力強い一歩を踏み出した。

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