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境界線のアグレッサー ―不落の絶対座標より―  作者: saku
奪還の座標と光り輝く星々
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紡ぐ希望の座標

列島を分断した「断裂」から数日。

臨時バンカーの周辺は、もはやこの世の光景とは思えないほど、破壊の痕跡と不気味な静寂が入り混じっていた。

九州方面からはすでに断裂を跨ぐ巨大な橋が架けられ、四国方面からも海を越えて無数の影が蠢いている。西日本全土の敵が、この「絶対座標」という唯一の希望を消し去るために、怒涛の勢いで集結していた。


だが、その絶望的な波を、たった8機の機体が押し留め続けていた。


「来るぞ! 九州方面、橋の上から増援だ!」

源田が鋭く叫ぶ。


かつて、九州からの撤退戦で和泉を死の淵まで追い詰め、この絶対座標で幾度も死闘を繰り広げた「緑の目」を宿す高機動型が、再びその不気味な光を明滅させて橋を渡ってくる。以前の和泉が全身包帯だらけになりながら、文字通り命を削ってようやく退けた宿敵。それが今、歪な隊列を組み、空間を侵食するような威圧感を持って迫っていた。


『……ミツケタ……』


通信機を介さない、意識の裏側に直接響くようなノイズ。

それは敵の集合知能が、明確に和泉という個体を「排除すべき特異点」として再定義した瞬間だった。何万という敵の視線が一点に集中し、荒野の気温が一段階下がったかのような錯覚を覚える。


『……ターゲット、カクニン。ハイジョ……シ……マ……ス……』


機械的な無機質さと、獲物を追い詰めた執着が混ざり合った不気味な意志。

源田たちは、機体のセンサーが警告音を鳴らし続ける中で息を呑んだ。目の前にいるのは、かつての宿敵が「最適化」され、より効率的な殺戮兵器へと進化した姿だった。


しかし、彼らの前に立つ灰色の機体――和泉は、微動だにしなかった。


「……悪いが、もう時間はかけられない。迎えに来る戦友なかまたちが合流するこの場所を、これ以上壊させるわけにはいかないんでな」


和泉の声は、静かだが揺るぎない力に満ちていた。

このバンカーは、ただの拠点ではない。小島たちが、東日本の全員が自分たちを迎えに来る「約束の場所」なのだ。ここを蹂躙させることは、託されたすべての想いを踏みにじることに等しい。


次の瞬間、和泉の機体の背部から薄紫色の光の粒子が爆発的に噴出した。

大地を蹴り、和泉は神速の踏み込みを見せる。


敵機が反応し、高出力のプラズマブレードを振り下ろす。かつてなら死を覚悟したその一撃。

だが、今の和泉にとっては、止まって見えるほどに遅かった。


「……一度見せた手品は、二度は通用しないと言ったはずだ」


和泉は滑るように身を沈め、敵のブレードを紙一重で回避。すれ違いざま、抜刀したブレードに紫色のエネルギーを収束させ、逆単分子の刃で一閃した。


音もなく、無敵を誇ったはずの敵装甲が上下に泣き分かれる。

一拍置いて、中心のコアを両断された敵機は、断末魔のノイズすら上げる間もなく爆散した。


「……嘘だろ、あいつを一撃で……!?」

特務小隊の南雲が、震える声で呟いた。

だが、驚嘆している暇はなかった。


「南雲、四国側からの奇襲だ! 連携で叩くぞ!」

「了解!」


和泉が前線を切り開くと同時に、源田、岩本、南雲ら特務小隊の8機が流れるような連携で動き出す。和泉が放つ紫の光に導かれるように、他の7機の機動性も極限まで高まっていた。

四国から迫る敵の大群に対し、8機は互いの死角を完璧に補い合い、次々と敵を解体していく。


橋を渡りきる前に破壊される九州の敵。海を越えた瞬間に撃墜される四国の敵。

地平線を埋め尽くす緑の目が、次々と爆炎に包まれていく。


「源田、お前たちはそこから動くな。防衛ラインを維持しろ」


数十の「緑の目」がさらに増援として現れたのを見て、和泉は淡々と命じた。


「中隊長!? いくらなんでも、あれだけの数を一人で――」

「一人じゃないさ」


和泉の機体が、再びゆっくりと姿勢を低くする。

装甲の隙間から漏れる薄紫色の光が、さらに激しく脈打ち始めた。


「俺の後ろには、ここでお前たちが、東の全部隊が、そして……先に逝ったあいつらがついている」


和泉の言葉には、目に見える軍勢以上の、分厚い「重み」があった。

彼が背負っているのは、この絶望の地で共に泥を啜った仲間たちの命だけではない。東日本で自分を呼び続ける無数の魂、そして道半ばで散っていったすべての戦友たちの想い。そのすべてが、今の和泉を支える盾であり、剣となっていた。


「こいつらは俺がやる。……一機たりとも、ここを通しはしない」


言葉と同時。

和泉の機体は紫の残像を残し、緑の目の群れへと単騎で突入した。


敵の攻撃をミリ単位で見切り、すれ違いざまにレールガンを接射し、反転しながらブレードでコアを両断する。一瞬の淀みもなく、仲間へと繋がる「道」を守るための演舞。


「すげえ……」

誰かが無意識に零した。


分断された死地の最前線。

そこには、絶望的な物量を前にしてなお、大切な場所と紡がれた想いを守り抜く、気高き英雄の姿があった。

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