威力偵察2
視界を埋め尽くすのは、海峡を覆う濃い霧と、その奥で脈動する「黒い増殖」だった。
中隊長機を含む四機の試験機は、瓦礫の山となった門司側の橋脚付近へと肉薄する。駆動音を抑えて微速前進。センサーが捉えたのは、人間の理解を拒絶する光景だった。
「中隊長、あれを……。奴ら、橋を直しているんじゃない。自分たちの体の一部を『橋』に変えて伸ばしています」
随伴する佐々木の通信に、隠しきれない戦慄が混じる。
敵ユニットは吸収した鉄骨を幾何学的な結晶構造へと変え、濁流の上を滑るように対岸へ突き出していた。通常兵装しか持たない佐々木と山本の機体では、あの異形の構造体を傷つけることすら叶わないだろう。
「佐々木、山本、30メートル後ろの瓦礫の影で射線を確保し、援護し撤退だ。……岩本、行くぞ。どこまでレールガンが通用するか試す」
中隊長は短く命じると、試作レールガンを装備した岩本機と共に、さらに前方の断崖へと機体を滑らせた。
スコープ越しに見る敵は、あまりに無機質で、巨大だった。通常兵器の砲弾を容易く弾き返し、多くの戦友を屠った「絶望」。その圧倒的な質量を前に、コックピット内に冷たい汗が流れる。
だが、恐怖をねじ伏せるように、中隊長は照準を敵の心臓部へと固定した。
高橋一佐が遺した弱点の情報を頭の片隅に置きつつも、意識のすべてを機体にマウントされた試作兵器へと注ぐ。幾度もの徹夜を経て研ぎ澄ませたこの「牙」は、果たしてあの化け物の装甲を食い破れるのか。
「試作レールガン、強制充填。岩本、私の射撃に合わせろ。……一射で証明するぞ」
充填音が耳を刺す高音へと変わり、機体が激しい熱を帯びる。
敵のセンサーがこちらを捉え、無機質な殺意が収束した。その瞬間、中隊長は迷わずトリガーを叩き込んだ。
「――放て!」
二条の閃光が霧を切り裂き、海峡の闇を白く焼き払った。
直後、金属が砕け散る絶叫のような破壊音が響く。これまであらゆる通常兵器を無力化してきた敵の装甲が、試作レールガンの超高速弾によって紙細工のように撃ち抜かれ、内部から爆ぜた。巨体がバランスを崩し、構築中だった「黒い道」とともに海峡へと崩れ落ちる。
「……通る。俺たちの牙は、奴らに届くぞ」
中隊長は網膜に焼き付いた破壊の手応えを噛み締めた。
だが、歓喜の暇はない。崩落した橋の向こう、霧の深淵から、さらに巨大な質量が――地響きを伴ってこちらへ動き始めていた。
「全機、即時離脱。データは取れた。……下関へ戻るぞ。ここからが、本当の戦いだ」




