威力偵察
崩落した関門橋の断崖で、敵多脚兵器のセンサーが冷たく明滅していた。奴らは海を渡らず、ただ機械的な正確さで瓦礫の山を走査しては、霧の向こうへと消えていく。その不気味な静寂が、次なる侵攻への計算時間であることを、観測班の報告が裏付けていた。
「中隊長、門司港のクレーン群が消失……奴らに取り込まれています! 岸壁の資材を吸収し、独自の『橋台』を構築中。奴ら、作って渡る気です!」
観測員の震える声を聞きながら、後方では混乱が極まっていた。避難民の列の傍ら、壊滅した九州守備隊の残存兵たちが、泥と血にまみれた姿で次々とトラックから降ろされていた。ある者は虚ろな目で燃える対岸を見つめ、ある者は震える手で空の薬莢を握りしめている。地獄を見てきた彼らの無言の恐怖が、防衛線の兵士たちに重圧として伝播していく。その最中、本部から無線が入る。
「……こちら司令部。選任の防衛司令官を現地へ派遣する。中隊長は到着まで待機せよ」
「了解。だが、後手に回れば終わりだ。奴らが道を完成させる前に、直接この目で敵の挙動を確認しておく必要がある」
中隊長は淡々と応じると、独断で通信を切った。天幕を跳ね上げ、外に控えていた主要メンバー七名を鋭い視線で射抜く。
「これより威力偵察を行う。佐々木、山本、岩本は機体へ、私に続け。南雲と結城は撤退してきた九州守備隊の状況を把握し、戦力を再編しろ。源田と石井は本部から来る司令官の迎えと場所の確保。……各員、動け!」
短く硬い唱和が響き、七人はそれぞれの職責へと散った。モニター越しではなく、自分の網膜に敵を焼き付け、戦略を練り上げる。多くの戦友を屠った「絶望」の正体を見極めること。それが今の彼に課せられた軍人としての、唯一の解答だった。
潮風が吹き荒れる臨時拠点の天幕下、剥き出しの鉄骨に支えられた試作機が、鈍い金属光沢を放っていた。自らハッチを閉ざす。
「システム、オールグリーン。」
泥を噛んだ履帯と、無理やり繋いだ外部電源の火花が、反撃の産声を上げた。




