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生還者たちの小休止3

弔いの銃声から数十分後。野戦格納庫には、先ほどまでの悲壮感とは打って変わり、乾いた笑い声とレーション(戦闘糧食)を温める匂いが漂っていた。


「……にしても、隊長のあの機動はマジで頭おかしいですよ。シミュレーターなら三回は空中分解してますって」

「あの状況で生還した上に、俺たちにハッパかける元気まであるんだからな。化け物かよ」


第3、第4小隊の若い隊員たちが、泥だらけのコンクリート床に座り込みながら、温めたレトルトのシチューをかき込んでいる。その中心で、包帯姿の和泉はパイプ椅子に深く腰掛け、味気ないクラッカーを無造作に齧っていた。


「やかましい。お前らもあれくらいやれなきゃ、次は死ぬぞ」


憎まれ口を叩きながらも、和泉の口元には微かな笑みが浮かんでいる。生き残った第1、第2小隊の面々も、そのやり取りを見ながら安堵の息をつき、疲れた体を休めていた。


「だが隊長、補給が来るまであと数時間はかかります。第3、第4小隊の8機はほぼ無傷ですが、もし今、あの大規模な群れが来たら……」


副官の一人が、現実的な懸念を口にする。和泉は手元の水筒でクラッカーを流し込み、油まみれで作業を続ける伊達の背中を顎でしゃくった。


「伊達さんが今、傷だらけになった第1、第2の機体同士で『共食い整備』をやってくれてる。これで何機かは再び動かせるようになるはずだ。伊達さんが組み上げるまで、まずは無傷の第3、第4の8機が防衛の盾になれ」

「機体を完全に失った俺たちはどうします?」

「サポートに回れ。火器管制のバックアップでも、手動での弾薬装填でも、やれることは腐るほどある。意地でもこの絶対座標を持たせるんだ。……お前らならやれるだろ」


和泉の問いかけに、隊員たちは力強く頷いた。機体が無くても、彼らは腐っても精鋭部隊の「職人」だ。限られた手札でどう戦うか、すでにそれぞれの頭の中でシミュレーションが始まっている。


格納庫の奥から、ガシャン!と重い金属音が響いた。伊達が振り返り、油で汚れた顔のまま、親指を立ててみせる。「任せておけ」という、無言の絶対的な保証だった。


その和やかな、しかし確かな闘志に満ちた小休止の光景を、小島は少し離れた司令所の入り口から静かに見つめていた。

小島は踵を返し、再び薄暗い司令所の中へと戻っていく。


彼が向かい合うのは、温かい隊員たちの顔ではない。冷たく無機質な、絶望の地図だ。

モニターには、防衛省からの暗号通信が絶え間なく流れ込んでいる。


『――作戦決行時刻に到達。これより、大鳴門橋および瀬戸大橋を除く、四国から渡航可能な全橋梁および陸地の破壊作戦を開始する』


小島が官邸に突きつけた要求に対する、ひとつの回答。

四国で猛威を振るう学習型の「新型やつ」を本州へ容易に渡らせないための、冷酷な手段だ。


モニターの映像が切り替わる。

映し出されたのは、瀬戸内海に点在する橋梁や、海峡を繋ぐ人工の陸地。その至る所に無人爆撃機が張り付き、内部に仕掛けられた大量の指向性爆薬が赤いランプを点滅させていた。


「……やむを得ん。許してくれ」


小島が誰に届くわけでもない呟きをこぼした瞬間。


閃光。

次いで、映像の音声マイクが割れるほどの轟音が司令所に響き渡った。


いくつもの橋が根本からへし折られるように崩壊し、海峡を埋めていた陸地が粉々に吹き飛ばされていく。何万トンものコンクリートと鉄骨が、巨大な水柱を上げて瀬戸内海へと沈んでいく様は、一つの時代が終わる瞬間のようだった。


これにより、四国から本州への侵攻ルートは、意図的に残された大鳴門橋と瀬戸大橋の二つへと強制的に絞り込まれた。


それは同時に、現在四国で遅滞戦闘を続けている味方部隊や、逃げ遅れた民間人の退路を極限まで削り落とすことを意味していた。孤島と化しつつある四国は、もはや敵の蹂躙に任せるほかない。


すべては、本州への致命的な侵攻を防ぐためのトカゲの尻尾切りだ。


『破壊対象の崩落を確認。前線部隊は引き続き、残存ルートへの警戒を怠らぬよう――』


無機質な報告をBGMに、小島は深く目を閉じた。

ルートを絞り込んだところで、敵がその二つの大橋に全戦力を集中させてくるのは時間の問題だ。和泉たちが言ったように、これはただの序盤戦に過ぎない。


ただ一つの真実は、本州を死守するための血みどろの防衛戦が、いよいよ次の段階へ進んだということだけだった。

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