フェーズ・エグジット4
大気を切り裂くような甲高いジェットエンジン音が、戦場の上空を蹂躙した。
空を掠めた戦闘機のシルエットから、二筋の白煙が放たれる。標的は、和泉に肉薄する緑白の亡霊――ではない。二発のミサイルは、亡霊のさらに「背後」、奴が回避行動をとるであろう退路のど真ん中へと正確に着弾した。
凄まじい爆発が巻き起こり、背後からの爆風と熱波が亡霊の機体を激しく打つ。いかに人間離れした機動を誇ろうと、物理的な衝撃波までは無効化できない。退路を断たれ、爆発に押し出されるようにして、亡霊の姿勢がわずかに前方へのめり込んだ。
(そこだ……ッ!)
先輩が作り出したコンマ数秒の絶対的な「隙」。和泉は、融解寸前で警報を鳴らし続けるレールガンの引き金を、一切の躊躇なく絞り切った。
「落ちろッ!!」
至近距離から放たれた極太のプラズマ弾が、亡霊の横移動を完全に封じ込め、その機体動作を硬直させる。レールガンをパージした和泉は、すでに最高速で踏み込んでいた。
右腕の近接振動刃が、空気を震わせて限界の咆哮を上げる。
緑白の妖刀と、赤熱する振動刃が交差する。
甲高い金属の悲鳴がコクピットに響き渡るが、機体の推進力と全エネルギーを乗せた和泉の斬撃が勝った。和泉は刃を押し込んだまま、亡霊の機体を力任せに弾き飛ばす。
吹き飛ばされた先は、間もなく破滅が降り注ぐ「指定座標の中心地」だ。
10時01分28秒。
亡霊を突き放した和泉の頭上を、凄まじい速度で戦闘機が旋回してくる。橋の複雑なワイヤーと鉄骨の間を、狂気じみた精度で縫うように飛翔するその機体から、一本の頑強な牽引フックが射出された。
和泉は残された姿勢制御スラスターを全開にし、機体を跳躍させる。
ガキンッ!という重厚な衝突音とともに、和泉機の背部装甲にフックが食い込んだ。直後、内臓がひっくり返るような強烈な重力加速度(G)が和泉を襲う。
戦闘機は和泉の巨体を吊り上げたまま、アフターバーナーを吹かして戦域からの超高速離脱を敢行した。
10時01分30秒。
小島の予告通り、司令部のタイマーがゼロを指した。
天空から、陸上自衛隊の全火力を結集した無数の砲弾が、文字通り「鉄の雨」となって降り注ぐ。吊り上げられ、急速に遠ざかる和泉のモニター越しに、地獄が現出するのを見た。大地がめくれ上がり、岩盤が砕け、人工の煙幕すらも吹き飛ばす圧倒的な破壊の光。
その火の海の中へ、やつは再び沈み込み、完全に姿を消した。
極限のGに耐えながら、和泉は上空を往く機体を見上げ、長く、深い息を吐き出した。




