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思いの奔流、崩れゆく囲い

塔の基部がアグレッサーたちの斉射によって砕け散った瞬間、そこには爆音も、物理的な崩壊音も存在しなかった。

あったのは、長く冷たい眠りから強制的に引きずり出された「生」の叫びだけだ。


かつてこの星を蹂躙する侵略者たちの頂点に君臨した元「王」、シン。彼には塔から溢れ出す「人として生きた証」の奔流が流れ込んできていた。


塔の内部で圧縮されていたのは、数えきれないほどの「生きた証」そのものだった。子供が母に抱かれ、穏やかな吐息を漏らした記憶。老人が街路樹の下で感じた風の感触。恋人と交わした、未来を誓い合う他愛のない会話。


...そして、それらを無慈悲に押し潰すように混ざり合う、最期の瞬間の光景。


――九州の地が蹂躙された、あの悪夢の瞬間そのものだった。

物理的にすべてを押しつぶす無機質な機械の群れと、凶悪な緑の光を放つ瞳の異形たちが、逃げ惑う人々を無差別に刈り取っていく。

兵士たちは必死に盾となったが、圧倒的な力の前ではあまりに無力だった。愛する者を守ろうと駆け寄った親も、ただの肉塊として砕かれる。抗う術を失い、地面に叩きつけられ、動けなくなった人々の背後に、静かに、しかし確実に銀色の波が忍び寄る。

温かかったはずの肌が、逃げ場のない絶望の中で銀色の膜に飲み込まれ、無機質な硬質感へと書き換えられていく。その生々しい苦痛と、最後まで消えなかった「生きたい」という叫びの断片が、崩壊した塔から雪崩となってシンの心へと流れ込んだ。


かつて自分が統治した時代であれば、このような野蛮な文明の搾取など、断じて許されるはずがなかった。王は文明の価値を理解し、彼らが紡ぐ物語を何よりも尊んでいたからだ。もし自分が今も不落の玉座に座していれば、誇り高きこの星の民を、これほどの屈辱と絶望の中で消し去ることは決してなかっただろう。

亡きこの星の民への、そして彼らの尊厳を泥で汚した我が同胞への、痛切なる懺悔。一国の王であった記憶が、シンの精神の奥底で静かに、しかし激しく燃え上がる。


『……美しい。だが、あまりに痛ましい』


和泉たちが塔を物理的に破壊したことで、敵の侵略部隊が道具として用いている防衛システムの統制にわずかな「歪み」が生じた。

シンは自らの王としての権能を直接行使し、流れ込んできた人類の「生きた証」を読み解きながら、敵の構築した支配網を力で圧倒していく。王の絶対的な命令が、敵システムの優先順位を「管理」から「解放」へと強制的に捻じ曲げた。


塔に繋ぎ止められていた数多の意識たちが、一斉に解放されていく。彼らはどこかへ消えるのではない。この地に残された自分たちの「証」として、呪縛から脱し、光となって魂の在処へと還っていく。

砕け散った塔の周辺の銀の大地だけが、断末魔のような光を放つ。それは機械仕掛けの支配網の崩壊であり、囚われていた者たちがようやく手にする自由の輝きだった。


シンは自らの魂がすり減るような感覚を覚えながらも、圧倒的な力で干渉を続けた。王としての矜持と、今、目の前で戦う人類への畏敬が混ざり合う。


『……和泉。お前の星の者たちが苦しんでいる。城へ向かう前に、ここら一体の塔を壊すんだ』


和泉はシンと深くリンクしている。だからこそ、システムに強引に干渉し続けているシンの力が急激に弱体化しているのが、手に取るように分かっていた。このまま無理を重ねれば、シンの存在そのものが消えてしまいかねない。


「おい、シン。それ以上は……」

和泉がその身を案じて制止の言葉を口にしようとした瞬間、それを遮るようにシンが告げた。


『……民は苦しむべきではない。これは王族が、力ある者が背負うべきもののはずだ』


シンの声には、決して引き下がらない強固な響きがあった。それは滅びゆく民をただ哀れむようなものではない。和泉たちと共に前線を駆け、誇り高きこの星の民を必ずや救い出すのだという、かつての王が見せたあまりにも強い意志そのものだった。


和泉は短く息を吐き、不敵に口角を上げた。

「……そうだな」


和泉は即座に広域通信を開き、全軍へ向けて叫んだ。その声は、強襲揚陸艦の小島司令、海岸線で陣地を築く岩本、そして周囲を固める金子中隊のすべてに響き渡る。


「全員聞こえるな。今壊した塔を探せ。その座標を俺におくれ。あれにはここで生きていた人間の魂がとらわれている。塔をぶっ壊したうえで俺が行く必要がある」


和泉の切迫した、しかし確信に満ちた言葉が無線を走る。

その直後、通信の向こうから小島司令の冷静で重みのある声が返ってきた。


『一度、作戦を練る必要がある。威力偵察の目的は達した。総員、帰投せよ』


小島の冷徹な状況判断により、全軍へ一時帰投の命令が下される。

和泉は悔しさを押し殺すように操縦桿を握り直し、並走する菅野小隊、杉田小隊の機体に向けて、静かに、だが決意を込めて告げた。


「……必ず戻ってくる」


崩れゆく最初の神殿をあとにし、白銀の機体群は一斉に反転する。

囚われた人々の魂をすべて解き放ち、この星の民を救うための本当の反撃が、ここから始まろうとしていた。

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