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銀の静寂と、反撃の橋頭堡

空を切り裂くようなアグレッサーたちの飛翔は、予想に反して、不気味なほどの静寂に包まれていた。


海を越え、ユーラシア大陸の沿岸部へと接近しても、かつて海上で遭遇したような狂気的な特攻も、対空砲火の雨も迫ってこない。

やがて彼らの眼下に、かつて敵の絶対防衛線として機能していた巨大な『壁』の残骸が見えてきた。和泉が先陣を切ってその崩壊した壁の隙間を抜け、未知の領域へと機体を滑り込ませる。


白亜の『キメラ』が、重々しい駆動音と共に大地へと降り立った。

それに続くように、アグレッサーの機体群が次々と周囲に降下し、警戒態勢を取る。しかし、やはり敵の姿はない。


「……気持ち悪いほど静かだな」


コックピットの中で、和泉は周囲の光景を見渡し、低く唸った。


かつてそこにあったはずの活気ある都市の面影は、完全に消失していた。

アスファルトの道路も、立ち並んでいたビル群も、その表面のすべてが銀色に鈍く光る未知の金属でコーティングされている。窓ガラスや看板の跡すらなく、ただ規則的で幾何学的な無機質のオブジェが延々と広がっているだけだった。


血の跡も、生活の息遣いも、何一つない。

ただ、そこにいるはずの生命の反応が完全に絶たれているという事実だけが、静かに、そして冷たく和泉の肌を撫でた。人が一人もいない死した街並みが、不気味な静寂となって押し寄せてくる。


『この大地を覆う銀色の構造物は、単なる装甲ではない。広大なエネルギー伝達回路網だ。……大陸そのものが、より彼らにとって住みやすい土地へと作り替えられている』


シンの無機質な声がコックピットに響き、モニターに大陸側の環境スキャン結果が表示される。


「兵器として作り替えられているのか?」


『いいえ、そうではない。これはあくまで、彼らの種族が住みやすくするための「準備」に過ぎない。大気の組成を書き換え、エネルギーを効率的に循環させるための土壌開発だ。……周囲にいくつか自動防衛装置の反応はあるが、今のお前たちに対しては、ほぼ無力だろう』


シンが淡々と告げる事実は、あまりにも残酷だった。地球そのものが、人類のためではなく、異星の生命のために「リフォーム」されているのだ。ここにいたはずの何億という人間たちは、この銀色の金属の下で無残に押し潰されたのか、それとも最初から存在しなかったかのように消されたのか。


和泉は操縦桿を強く握りしめ、前方の銀色の街並みを睨みつけた。


「……なあ、シン。この銀色のクソ忌々しいコーティングをひっぺがして、あの大元である『城』を叩き壊せば……この星は、元に戻るのか?」


演算装置の中でシミュレーションが行われ、わずかなノイズ音のあと、シンが答えた。


『……自然環境の自己修復能力と、人類の残存技術を掛け合わせれば、可能性はある』


「……可能性があれば大丈夫だ。俺たちが全部元通りにしてやる」


絶望的な景色を前にしても、和泉の心は決して折れてはいなかった。後ろを振り返れば、自分と同じようにこの狂った大地に降り立ち、共に前を向く仲間たちがいる。


まずは、艦隊を接岸させる場所の安全を確保しなければならない。和泉は即座に通信回線を開き、本隊を率いる小島へと直接、力強い声を送った。


「小島、聞こえるか。沿岸部の壁を抜けた。目立った敵影はない。今から接岸ポイントの座標を送る。こっちで安全を確保しておくから、いつでも船を寄こせ」


小島との通信を切ると、和泉は即座に各中隊長たちへと矢継ぎ早の指示を飛ばした。和泉の指示が通信網を瞬時に駆け抜け、大陸へ展開する部隊を網の目のように動かしていく。


「酒井、源田。前方の市街地跡へ向かい索敵に当たれ。伏兵には気をつけろ」

『応よ! シケた自動砲台くらいなら、準備運動のついでにスクラップにしてやる』

『了解した、先行する』


「岩本、石井、片倉中隊。この沿岸部一帯の守りを固めろ。小島の船が着くまでに、荷下ろし場と防衛ラインを構築しろ」

『任せてください。ガチガチの要塞にしてやりますよ』


「金子中隊。海上から来る艦隊の護衛だ。船が一隻でも欠けたら後がねえからな」

『了解しました。一隻たりとも沈ませはしません』


散っていく仲間たちを見送り、和泉は自機の両脇に控える二つの小隊へ視線を向けた。


「菅野、杉田。俺に続け。俺たちはこのまま、さらに奥の中央側まで踏み込む。……菅野小隊、杉田小隊、お前らを連れて行くぞ。正面ルートを先行し、威力偵察を敢行する」


『了解!』

『菅野小隊、全機追従します!』


若く血気盛んな二つの小隊が、キメラの両脇にピタリと寄り添う。

和泉は機体を前傾姿勢にさせ、銀色に舗装された異星の街道のさらに奥を見据えた。


「行くぞ。俺たちの新しい陣地を切り拓く」


駆動音を唸らせ、和泉と二個小隊は、中央領域へと向かって一気に加速した。銀色の大地へと確かな足跡を刻みながら突き進むその姿は、人類が奪われた世界を取り戻すための、小さくも絶対的な反撃の第一歩であった。

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