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「――結局、お前も私と同じ道を歩もうというわけだ」


甲板の端、冷たい潮風が吹き抜ける中で、シンが冷徹なまでの静けさで問いかけてきた。その無機質な声には、かつて孤独に演算の海を漂っていた自らの影と、今まさにすべてを一人で抱え込もうとしている和泉の姿が重なって見えているような、奇妙な同調の響きがある。


「そんなことはねえよ」


和泉は手すりに体重を預け、白銀に侵食された大地を見つめたまま短く答える。手元では煙草の火が風に揺れ、灰を散らしていた。


「俺はあいつらを突き放しただけだ。お前と一緒にすんな」


「否定はするが、行動の結果は同じだ。お前は今、自ら進んで『境界』の外側へ出ようとしている。……一人で」


「……一人か。案外、寂しいもんだな」


和泉は鼻で笑う。シンは一拍置くと、演算領域の奥底から静かな言葉を紡いだ。


「寂しさ? それは生存のためのノイズだ。……和泉、論理的には、あいつらを連れて進軍する方が生存確率は高い。それなのに、なぜ切り捨てる」


「お前には計算できねえよ、シン。あいつらの『熱』が見えねえんだろ」


「……熱。記録上の体温データか?」


「違うな。俺のために死にたがってるその熱量のことだよ。俺が『いいぞ、一緒に死のうぜ』とでも言えば、あいつらは本当に死ぬまで俺についてくる。……それが俺の部隊だ」


和泉は煙草を指先で弄びながら、虚空を見つめる。


「船の一部は帰れるだろうよ。だが、ここで折れたり、奮起しねえような奴らは俺の部隊にはいねえよ。俺がここで『俺の戦いだ』と宣言することで、あいつらに『帰る理由』を与える。俺の命なんて、あいつらが日本で穏やかに飯を食うための、ただの『燃料』だ」


「……非論理的だ。あいつらを生存させるために、絆を断ち切るのか? それは保護ではなく、精神的な破壊に近い」


「壊すことでしか、進めない道もある。……シン、お前もそうだったろ? あの城の深淵に触れた時、お前も一人で全部計算し尽くして、俺を突き放そうとした」


シンが沈黙する。その無機質な演算領域に、初めて澱のような「間」が生じた。


「……私の真意を、お前は理解しようとしているのか」


「理解なんてしてねえよ。ただの戦友だ」


和泉は初めて、視線をシン――機体のメインプロセッサがある位置へと向けた。


「おい、シン。俺がもしこの先で燃え尽きたら、お前はどうする」


「……私は、私を導いた『和泉』という記録を、演算領域の最深部に保存する。そして、お前が救おうとした対象が、この世界でいかなる結末を迎えるかを見届け続ける」


「ハッ、相変わらず冷てえな。……まあいい。最後まで、俺のわがままに付き合えよ」


「……了解した。我が戦友よ」


和泉は吸い殻を海へと投げ捨て、格納庫へと続く扉に手をかけた。


強襲揚陸艦の格納庫。

そこには、戦いの硝煙と焦げたオイルの臭いが混じり合い、重苦しい空気が澱のように溜まっていた。若手パイロットたちは和泉の言葉に激昂し、口々に憤りを漏らしていた。


「……あいつ、本当に何を考えてるんだ。俺たちを足手まといだとでも思ってやがるのか!」


「小島司令をただの撤退用運送屋か何かだと思ってやがる! あまりにも侮辱的だ!」


彼らの憤りは、格納庫の天井にまで届きそうなほど鋭い刃となって渦巻いていた。


格納庫の一角で、小島は淡々と、しかし異常なまでの沈着さで部隊の撤退ルートを書き換えていた。その表情は能面のように冷え切っている。だが、その完璧に整えられた所作の裏側で、小島の腹の底は煮えくり返るような激情に支配されていた。

和泉が一人で戦うことではない。彼が最後に小島を名指しし、「責任を持って連れて帰れ」と、あたかも守ってきた部隊を単なる「荷物」のように扱ったことへの激しい憤怒だった。長年、戦場の地獄を分かち合い、和泉の盾となり矛となってきた小島にとって、その言葉はあまりにも無神経で、かつ相棒としての誇りを完膚なきまでに踏みにじるものだった。


金子と伊達は、小島がペンを握る指先が、白くなるほど強く食い込んでいるのを見逃さなかった。彼らは、小島が今、和泉を殴り倒したいほどの衝動を、必死に理性で抑え込んでいることを理解していた。


一方、格納庫の離れた場所では、かつての九州奪還を知る面々が、小島らの心中を察してか、誰一人として口を開かず、黙々と自機の最終整備を行っていた。


源田は、慣れた手つきでメインキャノンの接続を確認する。

和泉の傲慢さすらもすべて背負った上で、戦場でその無謀を力ずくで支える準備を整えることだけが、今の彼らの戦いだった。


「文句がある奴は、戦場で言えばいい」


酒井が誰に聞かせるでもなくぼそりと呟くと、格納庫全体がシンと静まり返った。

響くのは、源田たちが整備を続ける規則的な駆動音だけ。それはこれから始まる「最後の戦い」に向けた、アグレッサーたちの、それぞれの怒りと悲しみを孕んだ無言の宣戦布告のように響いていた。

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