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暁の海と、無数の送り火

昇降リフトが重々しい駆動音を響かせ、和泉たち第1小隊の面々を強襲揚陸艦の広大な飛行甲板へと運び上げていく。

朝の冷たく澄んだ空気が肺を満たした。完全に夜が明けた佐世保基地の空は、抜けるような青色に染まっている。


甲板に降り立った彼らは、改めて自分たちの乗る艦の威容に息を呑んだ。

艦首にそびえ立つ超巨大レールガンは、朝日に照らされて禍々しくも神々しい輝きを放っている。船体を覆う白き『騎士』の装甲は、かつての無骨な軍艦を、まるで神話に登場する海竜のような姿へと変貌させていた。


和泉は艦橋の指揮所ではなく、あえて最前線の空気を肌で感じるために甲板の先頭に立った。

彼の背後には、同じく白き装甲を纏った百五十五機のキメラ機体――アグレッサーたちが、静かに起動音を響かせながら整列している。


上層部という鎖を引きちぎり、彼らは「誰の命令でもなく、自らの誓い」に従い、最も危険な任務へと向かう権利を得た。

和泉が息を深く吸い込み、全艦の通信回路を開いて出航の号令をかけようとした、まさにその時だった。


――ゴォォォォォォォ……ッ!!!


基地の外から、地鳴りのような凄まじい轟音が響いてきた。

敵襲か、と一瞬全員が身構えたが、違った。それは、途方もない数の「人間の声」と「無数のエンジンの駆動音」が重なり合った、巨大な熱の波動だった。


「だ、大隊長! 外を……海を見てください!」


甲板の縁に駆け寄った小島が、震える指で基地のフェンスの向こう側を指差した。

和泉が視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


昨日の、上層部を失脚させたあの痛快な放送を聞きつけた無数の民間人たちがフェンスの向こう側に押し寄せ、力限りに、千切れんばかりに旗や手を振っていた。

それだけではない。港を埋め尽くすほどの民間輸送船、小さな漁船の群れ、上空を旋回する他部隊の輸送ヘリコプター。さらに、日本中から夜を徹して駆けつけたであろうありとあらゆる技術者たちが、岸壁に鈴なりになり、出撃していく彼らを見送るために集結していたのだ。


「頼むぞ、アグレッサー!!」

「俺たちの英雄!!」

「絶対に、生きて帰ってこいよ!!」


何万、何十万という熱狂的なエール。空を震わせるような無数の船の汽笛が、佐世保の海を幾重にも包み込む。

それは軍の命令で動員されたものではない。絶望の淵から立ち上がった民衆と、命を繋がれた兵士たちが、世界の未来を託す者たちへ自発的に贈る、最大級の送り火だった。


「……大した人気者になっちまったな、俺たち」


源田が目を丸くしながら呟くと、言葉を発せない伊達は、手元の情報端末に『悪くねえ景色だ』と短いテキストを打ち込んで見せ、静かに笑った。

金子に不器用な告白を済ませて、いまだに顔を真っ赤にしている小島も、照れ隠しのように目元を拭いながら海原を見つめていた。


その圧倒的な光景と、背負うべきものの巨大な重み、そして温かさを前に、和泉はふっと息をついた。

彼はずっしりと重い手元の水筒の蓋を開け、朝の光に向かって高く掲げた。


それに倣い、小島も、源田も、伊達も、金子も、甲板に並ぶアグレッサーのパイロットたちも、見送る技術班の面々も、次々と水筒やマグカップを天に掲げる。

新しく生まれ変わった機体と独立連合艦隊、そして共に海を渡るシンに向けて。彼らは言葉のない、最後の祝杯を挙げた。


(……行くぞ、シン)


和泉が脳内で呼びかけると、共犯者は楽しげに、そして誇り高く応えた。


『ああ。征こうか、和泉』


和泉は通信回路のマイクを握り直し、甲板から真っ直ぐに水平線の彼方――まだ見ぬ絶望が待ち受けるアジア大陸の方角を見据えた。


「……さあ、世界をすくいに行くぞ」


和泉の静かで、しかし確かな熱を帯びた声が、艦隊の全スピーカーを通じて響き渡る。

それを合図に、神の遺産を組み込まれた揚陸艦のメインエンジンが爆発的な咆哮を上げた。海面が大きく波打ち、莫大な推進力が巨大な船体を押し出していく。


「「「おおおおおおおっ!!!」」」


地鳴りのような歓声とエールを追い風に受けながら、百五十五機の白き獣たちと独立連合艦隊は、朝日が照らす玄界灘を真っ二つに切り裂き、海を越えた先にある未知の大陸へと力強く抜錨した。

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