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反逆の波紋

玄界灘での圧倒的な蹂躙劇を終え、8機の白き獣たちが強襲揚陸艦へと帰還した。

海水を滴らせながら、ズシンズシンと重い足音を鳴らして巨大な前部ハッチから下層ドックへと機体が入り込むと、防衛線を維持していたアグレッサーの面々や、徹夜で魔改造を成し遂げた他部隊の職人たちから、割れんばかりの歓声が沸き起こった。


「大隊長! 最高だ、アンタら最高だぜ!」

「見たかよあの機動力! 俺たちの組んだ冷却パイプ、最後までもったじゃねえか!」


小島や源田たちがコクピットから顔を出し、整備兵たちと笑い合う。

和泉もまた、汗を拭いながらリフトで地上へと降り立ち、仲間たちの輪に加わろうとした。


だが、その歓喜の熱水を浴びせるように、ドックに冷酷な怒声が響き渡った。


「そこまでだ、貴様ら!!」


ドックの入り口から、完全武装の憲兵隊を何十人も引き連れた総司令部の将校たちが、顔を真っ赤にして踏み込んできた。彼らの登場に、ドックの空気は一瞬にして凍りつく。


「和泉大隊長! および本件に加担した全隊員! 貴様らを軍規違反、国家反逆罪、および未認可兵器の不法製造の容疑で拘束する!」


将校の一人が、唾を飛ばしながら喚き散らした。


「軍の許可なく勝手に出撃したばかりか、あろうことか敵の残骸を勝手に引き揚げ、自らの機体に組み込むなど言語道断! それは国家の所有物であるべき『神の遺産』だ! 貴様らのような現場のならず者が独占していい力ではない! 今すぐその機体から降りて、すべての権限を総司令部に引き渡せ!」


その言葉に、小島や整備兵たちの顔に明らかな殺意が浮かぶ。

自分たちで命を懸けてサルベージし、徹夜で血反吐を吐きながら組み上げた機体だ。それを、安全な場所から見ているだけで何一つ手伝わなかった連中が、「自分たちのものだ」と主張しているのだ。


「憲兵隊! そいつらを直ちに捕縛しろ!」


将校が激昂して命じる。

しかし、憲兵たちは互いに顔を見合わせ、誰一人として和泉たちに銃を向けようとはしなかった。彼らもまた、同じ軍服に身を包み、共に最前線の空気を吸う現場の人間だ。

安全な地下でふんぞり返る上層部ではなく、泥にまみれた彼らこそが、誰が本当に日本を、そして世界を護ろうとしているのかを、痛いほど理解していたのだ。


和泉は微かに鼻で笑うと、胸ポケットから煙草を取り出して火をつけた。


「……独占、ねえ」


和泉の静かな声が、ドックに響く。


「アンタらの仕事は、現場に首輪をつけることじゃなかったはずだ。この国を、国民を護るための方法を考えることだったはずだろ」


それは、腐敗した権力に対する痛烈な一撃だった。

そして――その和泉の言葉と、将校たちの醜悪な姿は、このドックの中だけで終わるものではなかった。


『……音声データ、および現在のドック内の映像、全国の民間ネットワークおよび各避難所へ転送完了。……やっちまえ』


強襲揚陸艦のブリッジで、朝方に上層部へ「出撃完了」を報告したあの若いオペレーターが、コンソールを叩きながら静かに呟いた。

彼は、前線で命を懸ける同胞たちの扱いにとうとう我慢の限界を迎え、軍の暗号通信網をハッキング。上層部と和泉たちのこのやり取りを、日本全国の国民に向けて「完全な生中継」として垂れ流していたのだ。


同時刻。

東京、大阪、名古屋をはじめとする、日本全国の仮設避難所や野営キャンプ、そして復興の進まない市街地。

配給を待ち、過酷な環境で身を寄せ合って生き延びてきた国民たちは、突如として広場の大型モニターや手元の携帯端末に映し出された映像に息を呑んだ。


そこには、恐ろしいほどの力で海を割り、無傷で敵を粉砕して帰還した傷だらけの白い機体と、ボロボロの作業着を着た整備兵たちの姿があった。

そして、彼らを労うどころか、銃を向けて権力を振りかざす恰幅の良い将校たちの姿が、はっきりと映し出されていた。


『それは国家の所有物であるべき神の遺産だ! 貴様らのような現場のならず者が独占していい力ではない!』


その言葉を聞いた瞬間、日本中の空気が変わった。

国民たちは知っている。外の世界が地獄の業火に包まれ、自分たちが地上で飢えと寒さに震えながら避難生活を強いられていたあの時、政府や軍の上層部はいち早く安全な地下深くの特区へと逃げ込んでいたことを。


「なんだ、あいつら……」

避難所の片隅で、ラジオを握りしめていた初老の男が、震える声で呟いた。


「自分たちは安全な場所で死を待っていたくせに……和泉大隊長や、現場の兵士たちが命がけで新しい力を見つけたと分かれば、すぐに首輪をつけて独占しようとしてるのか……!」


その呟きは、隣の者へ、そしてまた隣の者へと波のように伝播していった。

これまで国を信じ、理不尽な配給制限や劣悪な環境にも耐え忍んできた国民たちの心の中で、張り詰めていた糸がプツリと切れた。


「ふざけるな……ッ!」


一人の青年が立ち上がり、モニターに向かって叫んだ。


「俺たちを、この国を救ってくれたのはあんたたちじゃない! そこで泥まみれになって戦ってくれている、アグレッサーの兵士たちだろ!!」

「そうだ! 英雄を縛り付けるな!」

「寄生虫はお前らの方だ!!」


怒りの波は、瞬く間に日本中を飲み込んだ。

「自分たちは安全な地下で死を待っていたくせに、力があるとわかればすぐに首輪をつけて独占しようとしている」――その真実が、長きにわたる抑圧の中で溜まり続けていた国民の鬱憤に、ついに特大の火をつけたのだ。


「和泉大隊長たちを解放しろ!」

「軍の私物化を許すな!」


怒号が各地の避難所や市街地に響き渡り、やがて人々は立ち上がり始めた。

生きるための、そして真の英雄を守るための、国を挙げた「抗議活動」のうねりが、巨大な地鳴りとなって日本中から巻き起こり始めていた。

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