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関門反攻作戦5

山本が地上への合流にむけて離脱し、新幹線の巨大な静寂が和泉を包み込んだ。アグレッサーを運転席に直結させたまま、和泉は暗いコンソールを見つめて思考を巡らせる。


(電力を途中で切るわけにはいかんが、最後まで一緒に行くわけにもいかない……さて、どうしたものか)


衝突の瞬間、アグレッサーが運転席にいては機体ごと粉砕される。だが、推進力を維持するためには直前まで給電を続けなければならない。和泉の思考は、冷徹に機体の「脱出」を計算し始めた。


(……後方の車両を潰して、そこに機体をねじ込む。最後、先頭車両が奴らにぶつかるタイミングで離脱しつつ、レールガンを叩き込むか。……そうか、レールガンの最大出力で機体の地面ロックを強制解除すれば、その反動で後方へ飛べるな。それでいこう)


解を導き出すと、和泉は小さく独り言を吐いた。


「……伝えるとめんどくさい。このままいくか」


仲間たちに言えば、間違いなくこの危うい「脱出プラン」に反対される。和泉はそれを合理的に切り捨てた。ここから動かせば目標までは5分とかからない。残されたわずかな時間で、彼は機体を後方車両へと移動させ、離脱用の「細工」を完璧に完了させた。


作業中、ヘルメット越しには小島たちの通信が流れ続けている。岩本と佐々木が装甲車を土台にレールを曲げ、源田が敵の哨戒機を仕留め、石井が精密な爆破計算を終える。その一音一音が、和泉には戦場の鼓動のように聞こえた。


一歩間違えれば、自分はこの鉄の塊の中で塵になる。失敗は許されず、死はすぐ隣にある。だが、和泉の精神はどこか楽観的だった。

「ま、なんとかなるだろ」

そう呟いた、その時だった。


『……任せたぞ』

『お前ならやれる。……行け、和泉』


ふと、ノイズの向こうから、かつてここで命を散らしたであろう軍人たちの声が聞こえた気がした。地縛霊か、あるいは極限状態が見せた幻聴か。だが、その中にははっきりと、軍人としてのいろはを教わり、夜を徹して戦闘技術や戦略を語り合った恩師、高橋一佐の声が混じっていた。


「……ああ。見ていてください、高橋一佐」


和泉は口角を上げると、アグレッサーの全動力を新幹線の主電動機へとダイレクトに流し込んだ。


「……加速、開始」


その瞬間、白銀の巨体が断末魔のような悲鳴を上げた。アグレッサーからの過剰な出力を受け、モーターは臨界点を突破。車体全体が激しくのたうち、和泉の視界ではトンネルの壁面が凄まじい速度で光の帯へと変わっていく。自身の鼓動が、高周波を上げるモーターの回転数と完全に同期していく。


完全な「孤独」と「信頼」。

密閉された空間で、外部の音は一切届かない。聞こえるのは機体のアラート音と、自身の呼吸音。そして、仲間の作った「道」がそこにあるという、揺るぎない確信のみ。


(……来るな、15秒前)


09:33:45。

アグレッサーのセンサーが、前方からの微かな地響きを捉えた。石井が山肌を爆砕し、出口を抉り取った合図。


「道は開いたな」


和泉は操縦桿をさらに押し込み、最終加速へ。暗闇の先に、一条の光が差し込む。そこには岩本と佐々木が、装甲車を土台にして強引に築き上げた「ジャンプ台」が待ち構えていた。


「……3、2、1」


突入。

数百トンの質量が、重力という物理法則を嘲笑うかのように、夜空へと踊り出た。トンネルの闇から解放された白銀の槍を、昇り始めたばかりの旭光が鮮やかに染め上げる。


そして視界の正面。新幹線の到達高度すら凌駕する、威圧的な沈黙を保つ敵の巨大構造物がそびえ立っていた。一縷の希望を乗せた白銀の塊は、死線を越える弾丸となって、無機質な要塞の心臓部へと吸い込まれていく。

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