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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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遮断の石2


 岩壁に背をへばりつかせながら、一歩ずつ岩の間にできている空洞を進む。


 わたしは、火の魔法で灯りを作り、それを浮かせて先導させた。


 歩くたびに、湿り気を帯びた岩壁が背中を擦る。


 それほど時間は経っていないはずだが、ずいぶん長く歩いた気がしたとき、魔法の灯かりの火が止まった。そこからは隙間が二つに分れ、右奥へと隙間の道がのびていた。


 魔法の火はクルクルと一瞬回り、右奥の方へ動き出した。

 わたしは、灯りの後をついて行く。


 ほどなく、浅い洞穴状の岩に、びっしりと重なり合っている黒い結晶が現れた。魔法の火はそこで、くるくる回ったまま止まっていた。


 あった! わたしの探していた遮断の石だ。わたしは興奮を抑えられなかった。

 やったー、これで一つはクリアだわ! 


 しかし問題は、この遮断石をどうやって切り出すかだ。それと、遮断するのに必要な分量もわからない。


 しかたない、試してみるしかないわね。


 取り合えず、チュニックの内側に手を入れて、収納バッグの中を探した。役に立ちそうな物はあまりない。仕方なく取り出したのは、短剣だった。かなり古い思い出のある短剣だ。これをくれたのは、ある山師の男だった。


 そうだったわ、懐かしい。


 わたしは、男爵家所領の、鉱山の町に近い母の別荘を思い浮かべた。


 そこは普段、鉱山の様子を見るために父や使用人たちが訪れるとき、使われることが多かったけれど、ときどき家族で避暑に来ることもあったのだ。


 子供のころは、しばらく滞在するのが楽しみだったっけ。


 わたしは、お転婆で、男の子のように駆けまわっていて――日焼けしていつも短く切った髪を振り乱していたわ。

 

 二つ年上の兄の方が、大人しく、物静かな勉強家だったから、どちらが女の子か、わからないと母は嘆いていたけど……


 でも、そのおかげで、遮断の石のことを知ることができたのだし……悪いことではなかったのよね。


 ――あれは、わたしが七歳のときだったわ。こっそり別荘を抜け出して、町に行こうとしたとき、道に迷ってしまった――


 何度か連れて行ってもらった道だったのに、どこかで一本、道を間違えたのかもしれなかった。

 

 まだ正午にもなっていない時間だったけれど、さすがのわたしも少し元気をなくしていたの。


 山道をとぼとぼ歩いていくと、細い川が流れていたわ。その川で何かを、平たい網で掬っている男の人がいたのよね。 


 わたしは声をかけた。


「おじさん、何をとってるの?」

 道を聞けばいいのに、あのときは、そちらのほうに興味があったんだと思う。


 おじさんは、ちらりとわたしの方を見て、おいで、と手招きした。

 川は浅い川で、子供が入っても足首ぐらいしか水がなかったわ。


 だから、怖いもの知らずだったわたしは、すぐに川に入って、おじさんのそばへ行った。


 おじさんは持っていた平たい網のようなものを、わたしの目の前に突き出して言ったわ。

「砂金だよ」

 網の上には、小さな金色の粉がついていた。


 わたしが、不思議そうにしているのを見てちょっと笑った。

「知らないのか。金鉱から流れてきた小さな金の粒だ」

 わたしが驚いていると、ひとつまみとってわたしの掌に載せてくれた。

「持って行け」

 わたしが驚いたまま、つっ立っていたので、「さあさあ、行きなさい。早く帰れよ」

 そう言って川の縁まで連れて行ってくれた。


 わたしは、砂金を握りしめまたまま、川の縁に座っておじさんを見ていた。


 やがておじさんは川から上がってきた。

「おい、小僧、帰らないのか?」

 首をかしげながら言った。

 おじさんは、わたしを男の子だと思っているらしかった。


 まあ、そうよね、今思うと、女の子があんなところにいるとは思わないわよね。

 それに外へ出るときは、いつも村の子どもが着るチュニックだし、走り回るせいで汚れも付いたままだったから。

 

 こっそりこの衣服を調達してくれたのは、わたしの乳母で側仕えの侍女よ。わたしを甘やかしてくれる大好きなわたしの味方。


 でも、こんな姿を見たら、母は怒り狂っていたかもしれない。


 「帰る道がわからない……」

  

  わたしの言葉におじさんは驚いた顔をした。意外に優しそうな顔だった。

 「なんだ、道に迷ったのか、で、どっちからきた?」

 

 わたしは、来た方向を指さした。


 おじさんは、荷物をまとめて腰につけると、フードを被ってわたしに背を向け、しゃがみこんだ。

「ほら、おぶってやる。おいで」


 わたしは、少し迷ったけれど、歩き疲れてもいたので、その誘いに乗った。


 

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