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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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遮断の石


「あ、こら、まただ――」

  

 わたしは、ふわふわの塊を拾い上げた。


 女神からもらった、ふわふわの雲の塊は、収納バッグに入れても、すぐに飛び出して転がり落ちる。まるで生き物みたいだった。


 持ち上げて、あれこれ眺めても、手足もなければ口もない。ただ、もらった時点より少し色が変化している。薄い青からまるで夕焼けの始まる前の空の色だ。


 いったい何だろう?これは……


 首をかしげながらも、しかたがないので小脇に抱えたまま、岩山の入口をそっとのぞきこんだ。


 岩の裂け目は、人工的に削られ、人が行き来できるほどに加工されていた。

 今は使われていないらしい。かなり前に廃坑になったのかもしれない。


 わたしは、ふっと指先に魔法の炎を灯した。それを灯りに岩山の奥へ進む。


 進むほどに、ここがかつては金鉱であったのではないかという思いが強まった。おそらく鉱脈を掘りつくして、打ち捨てられたのだろう。

 

 そういった話は、幼いころ周りの大人たちがよく話していた。

 どこそこの山は、もう金が採れなくなったそうだとか、うちの山は金の鉱脈が無くて残念だ、などという話は日常的に聞いていた。


 それというのも、わたしの家は男爵家でありながら、鉱山主でもあったから。

 領地内には、小さな鉱山町もできていた。


 伯爵の娘だった母が男爵家に嫁いで来たとき、持参金がわりに鉱山を持って来たのだ。


 なぜ母が男爵家に来たかって? それは、もちろん父が素敵な男だったから。大恋愛だったらしい。


 二人の熱愛話はよく聞かされた。たしかに今でも父は整った顔で格好も良い。

 若いころなら、もっとだったろう。


 髪はすっかり灰色になってしまっているけど、もとは銀髪だったらしい。すらりと背は高く細身でありながら魔力はその辺の魔法師には引けを取らない。今は魔法学院で教えている。


 しかも強くて優しい。あ、これは身内びいきかも知れないわ。

 でも、そのおかげか、めったな男には興味が持てなくなってしまった気がする。

 どうしても父と比べてしまうのよね。


 ああ、いけない、それどころじゃなかった、早く遮断石を探さなくちゃ。

 わたしは浮かんでくる想いを打ち消した。


 追跡魔法は、おそらくこの岩山に入ったところで、弱まっているか、止まっているだろう。


 わたしは、試しに父の魔力にタッチできるかどうか自分の魔力を放出してみた。

 が、届かない。自分の放った魔力が、岩壁(いわかべ)に跳ね返されて自分に降ってきた。

 やばっ、さっと身をかわす。敵対魔力ではないので害することはないが、避けるのはくせである。


 父と魔法戦を子供のころよくやっていたな。


 ふと両親のことを思い浮かべた。

 きっと心配しているだろう……連絡のしようもなかった。記憶が戻ったのは、今朝のことなのだ。


 しかし追跡魔法が動いたことで、わたしが生きていることは知らされるだろう。

 それが唯一のなぐさめだった。


 岩山の入口からかなり奥へ入ったとき、行き止まりが見えてきた。ここまで掘り進んで、中止になったのだろうか。途中には、横道がいくつか掘られていたがそれも浅いものだった。

 

 掘られた後に残っている岩石は、わたしの探している石ではなかった。


 この廃坑は、一時的な隠れ家には使えそうだけど、ずっといるわけにはいかない。早く追跡魔法を解除しなくては。


 わたしは腰を下ろした。

 意識を集中して、探している遮断石があるかどうか、探査の魔力をあたりに放つ。

 

 しばらく探査していると、入口に近い横穴の奥に微かな反応があった。


 反応のあった横穴までもどり、灯りにしていた炎を消して、岩壁に手を当てる。

 うん、確かに何かあるようだ。


 魔力を集中して岩壁に注ぎ込む。と、かすかにひび割れが起きた。そこへ火の魔法で小さな爆薬玉を作り押し込むと、少し離れて破裂させた。


 破裂の煙が収まったときには、岩壁には、人ひとりが通れるほどの穴が開いていた。

 中には細い隙間が奥に続いている。


 岩壁に身を寄せて歩けば、何とか通れそうだ。

 

 そのとき小脇に抱えていた、ふわふわの塊がピクリと動いた気がしたので、持ち上げて見てみると、また色が変わっていた。紺色に近い紫になっている。

 それ以外は変化はなかったので、わたしは肩をすくめると、また脇に抱え直した。

 

 そうして、わたしは穴に足を踏み入れたのだった。




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